第一章 変わりゆく妻の異変に気付く

五、認知症の診察と検査…医師が私と妻を別々に診察した

病院に行く日を前もって本人に伝えると気にして前日から落ち着かなくなったり、夜も寝なくなったり、当日になって「私、行かない」という場合もあると聞いていた。当日になって、さりげなく「今日昼から、お父さんと一緒に健康診断に行こか」と誘った。

「今日やったん。どこまで行くの?」
「長尾の駅からすぐだから、散歩がてら行こうや。運動しなくちゃ」
「うん。散歩も兼ねて行こか」と機嫌良く了承してくれた。

事前に、新田辺診療所に予約を入れておいた。「妻は、認知症の疑いがあるので、本人には健康診断に行くと伝えています。それなりの対応をお願いします」と事前に申し添えをしておいた。

診療所の先生に説明するために妻の生年月日、出生地、最終学歴、職業歴、結婚歴、家族構成、病歴、趣味、異常行動を起こした時期をA4にまとめたメモを用意しておいた。自宅から診療所まで、片道40分くらいの道のりだ。散歩にはちょうどいい。

行く途中、「お父さん、私、足腰は丈夫やろ元気で歩くやろ」と自慢げに私より先行して歩いてみせた。「うん。元気やな。大したもんや。追いつかれへんわ」と褒めた。今のところ足腰には、問題はなかった。

診療所に着いた。予約制なので、待合室には誰もいなかった。妻の健康保険証と先生へのメモを受付に渡した。

受付の女性が、「棚橋さん。今日は、健康診断に来られたのですね」と笑顔で妻に言った。「はい。そうです。よろしくお願いします」と笑顔で応えていた。気配りのある、気さくで明るい方だった。

「棚橋さん。ご主人からどうぞお入り下さい」と言われたので、「お父さんが先だからお前、ここで雑誌でも見て待ってて」と言い置いて診察室に入った。先生に挨拶して面接した。

心療内科の先生は、これまでに会った他の科の先生と違っていた。優しい雰囲気で笑顔が素敵で、話しやすく自然と信頼感と包容力を感じた。

渡したメモを読みながら、質問された。具体的に、どんな症状が出ていたのか。それは、いつ頃から起こっていたのか。一番困ったことは。過去にどんな病気にかかったか。一通りの問診が終わった。

「ご主人のお話から察するに、おそらく認知症の疑いがあると思います。アルツハイマー型認知症だと思われます。脳の神経細胞が、じわじわと死滅していき、脳が萎縮していく病気です。特に情報や記憶を司る海馬が侵されます。