第一章 ある教授の死

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「そんなことから、あなたにお頼みするのが一番いいと決めたようです」

「でも、いったい、わたしがなにをすればいいのかわからないのでは……」
「それを調べていただくのもお願いの一つです」

「ええっ、そんな─」無茶な!と思わず出かかった言葉をかろうじて呑み込んだ。

「でも少しですが、ヒントらしきものはあります」夫人は説得するような口調でいった。「主人が救急車で運ばれるとき、まだかすかに意識があったらしいんですが、そのとき、聖徳太子を頼む、とうわごとのようにいい続けていたそうです。おそらく、それがあなたに依頼したいことだったのではないかと思います」

「聖徳太子、ですか……」
「そうです。主人が到達した結論をもとにして、聖徳太子の物語を書いてほしかったのだと思います」

「でもわたし、歴史小説を書いたことがありませんし、特に古代史については、まったくの素人なんですが」

「そのことについては、主人はぜんぜん問題ないと考えているようでした。あなたは鋭い推理力の持ち主だし、真実を見極める能力がずば抜けていると太鼓判を押していました」

「あまりにも過大評価されておられるようですわ」沙也香は思わず苦笑してしまった。

「いいえ、あの人はうそやお世辞はいわない人ですから、ほんとうにそう思っていたと思います。無理なお願いだとは思いますが、主人の遺言だと思って引き受けてはいただけないでしょうか」