一通りサービスを終えたあと連絡先を交換することになった。私はお店の源氏名が書かれた名刺に自分のメールアドレスを書いて渡した。しかしそれから半年が経ってもショウ君からの連絡はなかった。

また季節は変わり冬になっていた。年も明けてしばらく経ち、私は一人で初詣をしに地元の神社へ来ていた。わざわざ出向いたのではない。

友人に会うため帰省したのだが、約束の時間よりだいぶ早く着いてしまい、ただ時間を潰すために立ち寄ったのだ。気持ちよく晴れた一月の空。もうショウ君の存在など忘れかけていた私の携帯が鳴った。

「久しぶり! 僕のこと覚えてるかな? 八月頃お店に行った二十七歳の営業マン。連絡先書いた紙、なくしちゃって。ようやく見つけたから連絡してみたよ。お店はまだ辞めてないかい?」

心臓がバクバクと音を立てた。私は狂気を胸に忍ばせながらまだ在籍している旨を返信した。

おまけに、下着姿の写真も送った。客とのメールにはよく卑猥な写真を添付して気を引いているのだ。神社でなんて罰当たりなことをしているのだろうと自分で自分を笑った。

「去年も健康でいられたことに感謝致します。今年もまた、無病息災でいられますように」

そんな祈りなど、大前提だ。人間がもし、毎日食事して寝るだけで満足できるのならば、こんなにも文明は発展し得なかったであろう。

この頃の私には、少しずつ増えていく貯蓄だけが、働く意味であり生きる意味となっていた。そんな平穏と言う名の退屈な日常に、どこか危険な香りが立ち込める。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『不倫の何がいけないの?』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。