ロッドは胸を反らせて豪語した。シェーンもうんうんとうなずいている。

高倉は今ここでこれ以上議論しても無駄と考え、シェーンの方を向いて聞いた。
「シェーン、マドールタイヤの工場をすぐに見たい。今日モザンビークのビザを申請すればいつ取れるか?」

「明日午前中には取れます」
「よし、明日の午後の便で秋山と共にマプートへ飛びたい。マプート行の午後便はあるか?」

「十四時発が一便あります」
「そうか。シェーン、君にマドールタイヤへ案内してもらいたいが出来るか」

「もちろんです。私は車で行きますから、明日午後マプート空港でお迎えします。十五時着ですから、そのままマドールタイヤへ行けば明日中に訪問できるでしょう」

「ではそうしてくれ。フライトの予約が取れ次第、アンネマリーから君へ確認の電話を入れさせる」

そうシェーンに言うと、今度はロッドに向かって、

「ブリット銀行のトップに今週後半に会いたい。アポイントを取ってくれ」
と指示し、会議を閉めるようにアンドルーに目配せをした。

そしてボードルームを出ると、自分の執務室へ向かう途中で、秋山の席に寄り、

「秋山君、明日マプートへ飛んでマドールタイヤを視察する。一泊してヨハネスへ戻る。今日中にビザを申請するからアンネマリーへ君のパスポートを渡してくれ」

と言って次に、社長室の前に座っているアンネマリーへ自分のパスポートを渡し、自分と秋山分の航空券とビザ、それとマプートのホテルの手配を指示した。

その後、秋山を社長室へ呼んで、会議でのロッドとシェーンの発言内容を説明した。

秋山は、
「そうですか、ブリット銀行がマドールタイヤの救済に乗り出すとは知りませんでした。それはそれとして、取締役会決議を無視したロッドは懲罰ものですね」
と低い声で言った。

「それを止められなかった君も懲罰ものだな」
と、少し冗談っぽくいうと秋山は頭をかいてうなだれた。

「とにかく懲罰の件はこれがある程度かたづいてからだ。今は出血を止めることが先決だ」 

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『アパルトヘイトの残滓』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。