「何が問題ですか、ではないだろう、シェーン。回収できていない売掛金がどんどん膨らんで五百万ランド(九千万円)にもなっているではないか」

「確かに五百万ランドになっていますが、相手の支払いが遅れているだけで近々払ってくれる筈です。それに五百万の内の三百万は昨年九月に不良債権として帳簿上の処理は済んでいますので、実質は二百万ランドです」

と、しれっとした顔で言った。これで高倉は切れた。

「五百万ランドという大金が回収不能となっているのは大問題だぞ、シェーン。帳簿上の処理が済んでいるからいいとは何ごとだ。払ってもらわねばならない金に変りはない。とに角、マドールタイヤはいつ、どうやって金を払ってくれるんだ、説明しろ」

と怒鳴りつけた。着任早々大変だ。
そこにロッド・モーロー取締役が口を挟んだ。

「ジョージ(高倉のファーストネームが譲二)、あなたは日本人だ。それに、こちらに来たばかりだから状況を把握できてないのは仕方がない。だからここは我々に任せてくれればいい」

ロッドは傲然と言い放った。会社の業績不振に対する反省のかけらもない。

彼は五十五歳、アンドルー・レクレアやシェーン・ネッスルと同じ白人で、経理、財務、人事、労務、IT、不動産、総務等を担当するマキシマ社の管理部門の最高責任者である。金髪で、鼻ひげを生やし、ちょっと癖のある顔をしている。

この男は気をつけないと危ないな、と着任時の顔合せでの第一印象で感じた。でっぷりとした腹で、シャツのボタンがちぎれそうだ。

土曜日の秋山の説明では、前社長が去ったあと、このロッドがモザンビークへの原材料供給継続を承認していたとのこと。

高倉はロッドを睨みつけながら述べた。

「私が日本人だとか、この会社の事情を知らないとか、そういう問題ではない。記録によれば昨年度に三百万ランドを不良債権として経理上処理した後は、マドールタイヤに対しての原材料の供給はしない。つまり不良債権はそれ以上増えることはないと取締役会で決議しているではないか。しかしその決議を無視して原材料供給を続けていたというのは信じられないことだ。何故そんなことになったのか」

「原材料を供給しなければマドールはタイヤを生産することができない。そうなれば売掛金はいつまでも回収できない。それと良いニュースがある。ブリット銀行という投資銀行があるが、そこがモザンビーク政府の要請でマドールタイヤの救済に乗り出すことになっている。そうなれば売掛金は全額回収できる」