一方、売り込む手段を考えるセリング(販売)は今日の売上を最大化することが目的なので、短期志向に陥りやすくなります。一見の顧客を相手にした観光地の土産物売り場をイメージすれば分かりやすいです。セリング(販売)では1回の売上をいかに最大化するかのみを考えています。このような短期志向の売り方がセリングで、マーケティングの根本的理論とは大きく異なります。

医療はサービス業ですが、サービス業の特性としては以下の4つがあります。

①無形性:
工場で生産される製品と異なり、サービスは無形のモノとして提供されますので、客観的価値評価が困難です。

②同時性:
販売現場で生産と消費が同時に起こります。販売のプロセス自体も商品となり、品質基準の難しさが生じます。例えば美容院と顧客、病院と患者も当てはまります。

③異質性:
さまざまな条件によって、サービスの品質に差異が生まれることを指します。医療においては提供する医師(看護師)の技量や知識と、顧客である患者の身体的・精神的状態や診療への協力度によって診療の質が変化します。のちに述べますクリティカルパスは、この異質性を極力少なくしようとしたものです。

④消滅性:
商品であれば過剰生産したものは在庫という形で貯蔵できますが、商品のように在庫がないので、貯蔵により需給の変化に柔軟に対応できないことを指します。飛行機の空席は飛び立ってしまえば、翌日に提供することはできないわけです。医療においても人材確保の容易な時に、人材を貯めておき、人材不足の時に活用するといったことができないので、過剰に患者が来院した際に、人的に無理を強いる状況が起こり得ます。

以上のように、医療経営ではサービス業の特徴を踏まえたマーケティング戦略が必要になります。