第Ⅰ部 医療経営戦略

第2章 医療におけるマーケティング戦略

本章のポイント

・マーケティングとは顧客ニーズを捉えて、顧客との関係性を構築・維持し、売れる仕組みを作ることです。
・医療情報の非対称性の解消、医療のコモディティ化、顧客ニーズの多様化など医療においてマーケティング戦略が重要になっています。
・今後の医療マーケティングには顧客満足の追求のみでなく、社会公共性志向、自己実現志向が求められます。

マーケティングの定義

医療職の皆様は、マーケティングという言葉を聞かれるとどのようなイメージを抱かれますでしょうか?

おそらく、宣伝、広告やPRといったイメージで、患者と患者の健康を扱う医療の現場には相応しくないと考える方もおられると思います。たしかに営利を目的としない病院経営にマーケティングというと不謹慎かもしれません。

しかし、従来のように良い医療さえ行っていれば患者が集まり、病院経営者が安穏と過ごせる時代は終わりました。医療にもマーケティングの概念が必要になってきたことを実感します。

ノースウエスタン大学ケロッグビジネススクールのフィリップ・コトラー博士(1931-)によると、マーケティングとは「価値と製品を創造して、提供し、他者と交換することを通じて、個人やグループが必要(ニーズ)とし、欲求(ウォンツ)するものを満たす社会的、経済的プロセス」と定義しています。

米国マーケティング協会(American Marketing Association:AMA)の2007年の定義によるとマーケティングとは「顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセス」としています(※注)。

MBAの授業では、マーケティングとは「売れるしくみづくり」と習いましたし、ピーター・ドラッカー(1909-2005)はマーケティングの理想は「販売を不要にすること」と言っています。