ああ、天狗みたいに高過ぎた鼻になった女優さんなあ。それそれ、あの人、思い出されへんなあ。

 思い出されへんかったから、嫁に聞いたがな。

 教えてくれたか。

 その時は覚えとったけど、又忘れてしもたがな。

 あかんやん。覚えとかんと。

 何日かたって嫁が言うてきよるねん。「天狗みたいに高過ぎた鼻になった女優さんの名前言うてみ」って、聞いてくるねん。

 意地悪な嫁やな。

B 私を試しよるねん。嫌なヤツやろ。悲しいけど、やっぱり思い出されへんねん。

 嫌な嫁やけど、記憶をつなぐのは、ボケ防止に役立つねんで。

 隣のおばあさんが肺炎になったんや。

 そら大変やったな。

 もうそろそろ、安らかにさせたりたい。神様のお許しが出たって身内の人もほっとしたんや。

 周りも大変やったやろ。

 次々とお別れにやって来るねん。優しい気持ちになって、手を握って「おばあちゃん、ご苦労さんやったね。ゆっくり休んでね」って言うねん。

 おばあちゃんアカンかったん。

 違うねん。いつまでたっても安らかにならへんねん。

 なんでや。

 お医者さんが点滴をして、命を引き延ばしてくれるねん。神様が上から引っ張って、お医者さんが下から引っ張って、綱引きしてるねん。そやから、おばあちゃん、なかなか死なれへんねん。

 助かったんやろ。良かったやん。

 ええ事ないねん。おばあちゃんは「ありがとう。さようなら」言うて早よおじいちゃんの所へ行きたいのに、行かしてくれへんのや。

 おじいちゃん待ってるのにな。

 待ってへんかもな。

A もうええわ。

※本記事は、2019年12月刊行の書籍『もうええわ!』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。