どうでしょうか、ヒューマンエラー防止対策として、私達がやらなければならないことが、かなり具体的に見えてきたのではないですか。

ヒューマンエラー防止対策で行うべきことは、たった1つの原因を完全に封じ込めるのではなく、中心の人に悪い影響を与えるマイナスの要因をできる限り減らすことを念頭に、周りのSHELとの不整合を解消することなのです。

具体的な対策実施上の考え方として、m-SHELモデルの中心に自分がいると仮定すると解りやすいでしょう。自分が今問題となっている活動を行う場合、周囲のSHELから受けるダメージを極力少なくするためには、各要素と自分との関係がどのような状態であればいいのかを考えるのです。

各要素との関係から“あるべき姿”と現状との差(ギャップ)を見つけ出し、その差を埋めるための具体的な対策を考えます。すなわち、SHELの中心で活動する人へのダメージを極力少なくし、その人の脳の処理が正確に行われる状態を維持するのです。

ここで話題を、再び私達の普段の生活に向けてみましょう。私達が暮らす社会には、先のロールプレイングゲームの例のように、常にマイナスの要因が飛び交っています。

環境問題、教育の問題、貧困など格差問題、人権問題、健康の問題、交通事故、人により差はありますがこれらの問題と対峙し、その中で人は自分のライフポイントを削りながら生きています。

社会が複雑になり、さらなる不整合が増えると、時に人は疲れ果て思考を停止し、事故を起こしたり、ミスを犯したりもします。

社会は、そんな不整合に対し、ルールを作り(防御のカベを作り)、システムそのものを改善しながら(不整合を解消しながら)進歩し、発展してきました。防御モデルを考えるまでもなく、人は自然に、生きるための手段として、ダメージの削減対策を行ってきたのです。

それに対して、自分たちが所属する組織はどうでしょうか。組織を取り巻く環境の変化に対応し、適切に対処できていますか。生産設備や技術改革の対応で手一杯となり、そこで働く人に対する対策は疎かになっていませんか。

もしも、設備故障や他の因子に比べてヒューマンエラーの発生率が目立って増加する傾向が見られるようなら、人に対するダメージ削減対策が充分でない可能性があります。直ぐにでも、対策の検討が必要です。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『 ヒューマンエラー防止対策』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。