胃潰瘍は日本が世界に誇る国民病で、まさか日本民族の悩みとタラの悩みが同一でもあるまいが、両者に共通する生活習慣が一つだけある。それはタラも日本人も、何でも食べる悪食(あくじき)習慣があるからだ。

我らは美味しければどこの国の物でも輸入し、料理に取り入れる、そして何よりも他国と違うのはほとんどの魚類を生で食べる。それは醤油という他国にない調味料を有する特権であろうが、その代償として世界一の胃潰瘍と、胃がん発生国の称号を有しておる。

実のところ吾輩もタラに負けぬ悪食の一人である。釣りも好きだが、釣魚を食うのも好きである。変わったところでは、よくベラを食う。エサ取り魚のあの憎い奴である。

秋にはそのベラを食うため、わざわざソレを釣りに行く。
型のいいのは刺身にする。諸君はベラの刺身など聞いたこともあるまい。
三枚に下ろして天ぷら、唐揚げもいいゾ。

腹とウロコを取って一晩干すと型崩れしない。それを南蛮漬けか煮物にする。
変わったところでは、ベラのグラタン。これはもう天下一品である。
骨が堅く多いけど、ていねいに骨を取ると脂が乗って実に美味しい魚なのだ。

ベラは砂場におる。したがって砂浜からでも釣れる。投げ釣りでもいいが、撒き餌をして、浮かせて釣るのが効率的だ。砂場だからフグも混じるから、場所を変えながら大型の揃うところを効率的に釣るとよい。

その日、ベラ釣りで、瀬戸内の小さな島にいた。
太陽はカンカン照り、無風で猛烈に暑い。

靴を脱いだり履いたりして紛らわしていたら、ズボンの裾から、フナ虫が這い上がって来た。フナ虫とは海辺におる甲殻類で「海のゴキブリ」と呼ばれている。

フナ虫は足が速い、アレレレと思う間に股ぐらまで這い上がって来た。このスケベ虫メ。

竿を持っているから機敏(きびん)に対処できない。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『お色気釣随筆 色は匂えど釣りぬるを』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。