隣の磯で釣っているコバちゃんから電話が入った。

「朕茂チャン、ズーと首を傾げているけど、どうかしたの?」
「放っといてくれ、男の人生は苦悩に満ちている」と言おうとしたが止めた。

釣り宿に帰ってからも、癖になった首の傾きは、寝違えた時のようになかなか元に戻らない。オイラが眉毛を突っ張って首を曲げ、ソクラテスのような哲学者顔をしておったものだから、せっかく懐(なつ)いていた宿の猫が不審がって近寄らない。

〇 風通しよけれど禿げの直(じか)日照り  短竿

実は、某日女房のヘアピースを頭に載せてみたことがある。
鏡台の角に置いてあるのを見つけ、周りに人がいないのを幸いに、いたずら半分にやってみた。

思いっきり若やいで見えるかと期待したが、頭の上に真蛸を一匹貼り付けたようで馴染(なじ)まない。若い頃に流行した慎太郎刈りや早乙女主水之介(さおとめもんどのすけ)の前髪のようにはならないのだ。

つい真剣になって鏡を覗き、櫛で撫でていたところ、後ろに人の気配がする、鏡の中に娘の顔!
目が合った。

「キャー、ケケケケッ、……クーックククッ……」

娘が涙を出し、腹をよじって笑う、……ようやく一段落すると、

「父さん! 本気で被る気なら相談に乗るよ!」
「……」
「オイ、チョット記念撮影してくれ」

そんな訳で、この写真は東京の息子のところまで飛んで行き、しばらく我が家の笑いの種になった。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『お色気釣随筆 色は匂えど釣りぬるを』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。