セットリストNo.1(第一章)

10 Forget Me Nots–Patrice Rushen

香子を乗せた翔一のフィアットは、外苑西通りを天現寺に向かって加速する。やがて交差する明治通りを左折すると、ほかに車の姿はほとんど見えない。少し強めにアクセルを踏み込むと、フィアットはフロントを持ち上げようとするかのように鋭く反応した。

芝公園前で、5差路の交差点を右折すると道路の左側に、周りの建物と比べると、確実に1ランク以上ハイグレードな外観を備えた15階建てのレジデンスが視界に入る。そのビルのフモトには、地下に向かう駐車場の入り口が、四角いブラックホールのように見えている。

翔一はフィアットのノーズを、抉り取られたような黒く、四角いその空間に向けた。コンクリートを貼りつけたような、スロープを駆け下り、来客用と、白色にペイントされたフリーパーキングスペースに、フィアットを入れて、エンジンを止めた。彼はシートを降り、香子側のドアを開けた。

メインエントランスは、ガードマンチェック付きだが、翔一はフリーパスゲストに登録されている。なにしろ最上階には、幼なじみが住んでいる場所だから。

ガードシステムが、ゲストをチェックするエントランス付近を抜けると、ホテルのロビーかな?と思うほどの共用スペースに、2基のエレベーターが備えられている。ロビーには、24時間を3交代で勤務にあたるガードマン達が常に警備室に控えている。

彼らが怪しいと思えば、ただちにこの建物の関係者であるかが質問される。最近はやりのオートロックなんか、こことは比べ物にはならない。