その八 出会い・気づき

③ むさぼるように

その頃、お昼はコンビニエンスストアで買っていました。お店の一隅に文庫本が置かれていました。ふと見た中に、『安心感』という題名の本を見つけました。不安の塊のような私は、その本を手にしていたのです。

F所属長のカウンセリングを受けている内に、今度はきちんと自分のこととして相談しようと、平成七年八月に、地元の保健所の「酒害相談」に出向きました。アルコール専門医の個別相談を予約し、長男にも話して一緒に相談に行ってもらいました。

先生から「あなたはどうなることを望んでいるのですか」と聞かれました。しばらく考えてから、「やはり、もう一度立ち直ってほしいし、家族みんなで生きていきたい」と答えました。

「そうですか。では、次の四つのことを本人にしっかり話しなさい。あなた一人ではダメですよ。息子さんたちとできれば多い方がよいのです」と助言くださいました。

(一)あなたは、彼を愛していると言いなさい。「言えない」と言うと、では大変大切な人と思っていると言いなさい。
(二)アルコール依存症は、病気だから回復すると伝えなさい。
(三)彼にちゃんと治療を受けてほしいと言いなさい。
(四)彼が治療をしないでこのままなら、一緒にはいられないときちんと伝えなさい。言う頃合は、連続飲酒の後で、もう飲めなくなっている本人が、一番自分を責めている時です。

ご主人に言ったら、あなた自身も必ずそれを実行することですと、強く言われました。

先生の助言のもとに息子二人と私と三人で夜静かな時、勇気を奮い起こししっかり話しました。思いもよらずすんなりと「わかった。次の専門医の個人相談に行く」と言うのです。夢を見ているようでした。

でも、約束の頃にはもう「ハイ」の状態になっていて、面接相談時には「否認」でした。アルコール依存症は認めず、糖尿病や肝臓の病気だから、自分で治療するというのでした。

私は、それからも保健所で教えていただき、彼には内緒でしたが、夏期休暇がある絶好の時期でしたので、いろいろな自助グループに参加することができました。酒害の勉強会やミーティングに毎週欠かさずに参加しました。少しずつですが、病気の本質を知り始めたのです。

個人面談から約一カ月後、彼は、お彼岸に田舎へ墓参りに一人で出かけました。帰りの列車の中で飲んだのです。彼は帰るやいなや絡んできて、ドンブリを私の額に投げ、傷つけました。

その晩、「今日は疲れているし、もう我慢するのはやめて自分を大切にしよう」と思えるようになっていました。でも、どこへ行って泊ったらよいのかもわかりません。