第一章 変わりゆく妻の異変に気付く

四、私はどこも悪くない…病院嫌いの妻を説得

一連の妻の言動が心配になってきた。京都宇治市に精神科医療のO病院があると教えてもらった。その出先の診療所が隣の京田辺市にあることも分かった。私は、なるべく早く病院に連れて行き診断結果を知りたかった。

妻は、昔から病院は好きではなかった。また、納得しないと動かない性格でもあった。痛みがあれば病院に連れて行けるが、認知症は痛みも自覚症状もない。「自分は、どこも悪くない」と思っている。

行くところは、妻には受け入れがたいであろう心療内科か精神科だ。どう説明すべきか迷った。

「この頃、お前の言動がおかしいから、一度病院に行こうか」
とか、
「最近、もの忘れがひどいから、認知症かも知れない。病院で先生に診てもらおう」
とか、ストレートに理屈で説得しようとすれば、恐らく反発されて病院に行くのを強く拒否するだろうと思った。

上手な説明の仕方はないだろうか、どう切り出せば良いのか正直悩んでいた。ゴルフの友達に、昔、グループホーム(認知症患者の共同生活施設)に勤務していた人がいた。その人に相談してみた。

「棚橋さんが言われる通りです。ストレートに言うと、奥さんは、プライドを傷つけられ、自分は非難されたと思い、不安がつのり反発します。また、自分の弱みを見せまいとして頑固にもなります。そうなると大変です。言い方として、いつまでも元気でいてほしいから、一度、体調を診てもらいに健康診断に一緒に行こうと言えばいいでしょう。認知症の人は、心を許した人は素直に受け入れてくれます。棚橋さんは、奥さんに信頼されているようですから、きっと、うまくいくと思いますよ」

とアドバイスしてくれた。相談して良かった。持つべきものは友、を実感した。

その後、妻が、くつろぐ機会を伺っていた。ある日の午後、妻がテレビドラマを見終わりお皿にお菓子を入れる音がした。

「お父さん。コーヒー飲む」
と声を掛けてきた。私は、パソコンの手を止めて台所に行った。絶好のチャンスだ。