「新しい専攻医の先生かな」

突然の声に背筋が伸びる。

「はい、そうです」
「外科の田所です。よろしくね」
「山川悠と申します。よろしくお願いします」

僕の隣の席は、田所先生という10年目の医師だった。とても爽やかで穏やかそうな先生だ。

「初めまして、今日からお世話になります専攻医1年目の東(あずま)です」

直後に背後から女性の声がする。振り返ると、僕と同じくスーツ姿でたくさんの荷物を抱えた女性が歩いて来た。

「おお、君が東さんか。聞いているよ。よろしくね」

確か消化器外科にもう1人赴任することになっていて、名前は東さんだった気がする。この子が同期になるのか。

なぜ田所先生は東さんを知っているのだろう。有名な子なのかもしれない。

「ところで、2人は初対面なの」
「はい」
「はい」

僕と東さんはほとんど同時に答えた。

「同期は貴重だから大切にしないといけないよ。協力して頑張ってね」

外科医は、3K(危険、きつい、汚い……)と言われ、なり手が少なくなってきている。だからこそ、外科医、しかも同じ消化器外科の同期は貴重なのだろう。

「よろしくね」
「うん、よろしく」

同期とは仲良くしたい。だけど、ライバル同士。こいつには負けられない。一瞬、そんなピリッとした空気が流れたような気がした。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『孤独な子ドクター』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。