4、リスクテイキング行動を選ぶ人と選ばない人がいる

異なる人が1つの“ある物”を見たとして、それが同一のものであるにもかかわらず、異なった判断や気持ちを抱くことは皆さんも経験したことがあるでしょう。

例えば、子犬を見て「可愛い」と思う人もいれば、「動物は苦手だ」と思う人もいます。花瓶に活けられた花を見て、単に、「とても綺麗だ」と感じる人もいれば、「自然の状態なら、やがて種をつけ次に命をつなげられたのに、摘むなんて可愛そうだ!」と、そこに切なさを感じる人もいます。この思考の違いは何から来るのでしょうか。

その理由は、その人の感性が、目の中に飛び込んだ視覚以外に、記憶の中にある“過去の経験”や“自分の立場”などの“視覚以外の判断材料”の影響を受けて、頭の中で異なった演算結果を出すからです。

それが、“過去にひどい仕打ちを受けた”とか、“今、追い詰められた状態で、気分的にギリギリの瀬戸際に立たされている”などの経験や心境に至っては、脳の演算に大きな影響を与える要因になります。

“コスト至上主義”や“納期至上主義”などを表に掲げる会社に在籍して、会社に都合がいいような行動をしてしまう人は、もはや“会社の都合”が自分の行動を決める大きな基準になっています。

つまり、脳の中の判断基準が、理不尽な会社の都合に浸食されてしまった人なのです。

そのため、“リスクテイキング行動の防止”を真に望むならば、根底に潜む問題から解決する必要があります。

その意味から、不正防止において本当に目指さなければならない方向は、“不正の3要素を揃えないようにする”ことではなく、組織で活動する人が“自分は不正という選択はしない”という意志を持ち続けられるようにすることです。

そんな状況を作るためにはどうすれば良いのでしょうか。ヒューマンエラー防止対策とは分けて考える必要があるため、後の第4章「リスクテイキング行動防止対策」の中で共に考えてみましょう。