さて医療の進歩した今日においても膵腫瘍の手術はなかなか困難です。膵がんの場合切除できないことが多いし切除できても再発することが多い。術後に高度の下痢や糖尿病が生じることもあります。ましてや80歳以上のご高齢の方は心肺機能の低下や腎機能の低下があったりします。さらに歩けない、自立生活ができないなどの問題があります。

このように考えると手術や抗がん剤治療などの積極的治療はなかなか選択できません。また患者さん自身もご家族もそのような積極的な治療は望まないことが多い。ただ現実に嘔吐が生じたり、腹痛があったり発熱、黄疸があれば何らかの手だてを講じない訳にはいきません。

その1つの手段が冒頭のステント治療です。腫瘍そのものは治すことはできませんが、腫瘍により生じた胆汁鬱滞や膵液の鬱滞を軽減し後は腫瘍と共存して頂く。

実際に私の10例の中でも手術されたのは60歳代の1人だけでした。後の9人の方は腹痛や黄疸などの自覚症状が出るまではそのまま何もせずに経過観察でした。症状が出た時にはKさんのように胆管内にステントを入れたり膵管にステントを入れます。この処置だけなら苦痛もなく数日の入院だけでまた在宅生活が可能となります。

98歳のKOさんは今でも自転車に乗り畑まで行かれます。ところが暮れに発熱で受診されました。診察の結果黄疸がありました。当日のCT、超音波検査で胆管に生じた腫瘍により胆管が閉塞し黄疸が出現、熱も出たようです。

12月28日。仕事納めの日です。98歳のご高齢。どうする? 当日診療が終わってから緊急内視鏡によるステント治療を行いました。幸い20分程で治療終了。翌日の診察ではKOさんの症状は消失し、退院可能なほどお元気でした。

また来年も自転車に乗りかねない。でも化石医師にとって98歳は内視鏡的ステント治療の最高齢記録となりました。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『新・健康夜咄』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。