第1章 医療

高齢社会の中で

94歳のKさんが退院されました。

昨年膵がんが発見された後脳梗塞を発症し、さらに膵がんのために生じた黄疸により2回入院されました。幸い脳梗塞はあまり障害を残しませんでした。

2回出現した黄疸はその都度閉塞した胆管内に挿入留置したステント治療により改善し、入院生活は3回合わせても2か月未満でした。Kさんの膵がんは通常の膵がんとは少し異なり、膵管の中に発育し粘調な膵液を産生するタイプの膵がんです。

1980年に化石医師の1年先輩の大橋先生が特異な膵管像を呈する膵腫瘍として報告されました。それが本邦での最初の報告例だったと化石医師は記憶しています。その4年後に化石医師自身の2例の症例報告が雑誌に掲載されています。言い換えれば当時はそれほど珍しいタイプの腫瘍であったと言えます。

ところが現在化石医師の手元にこのタイプの腫瘍(このタイプにはがん化したものと良性のものとの2タイプがあります)10例のファイルがあります。いずれもこの3年ほどの間に診断されています。

3年間でこれだけ診断されたことは驚異です。理由としてCT、MRI、超音波検査などの画像検査法の進歩と普及、この腫瘍に対する知識、認識の広まりなどがありますが、一番大きな要因は高齢化であろうと、化石医師は考えています。

実際に10例のうち8例の方は皆80歳以上です。思えば大橋先生の報告も化石医師自身の報告も、近づきつつある高齢社会の前兆であったのかもしれません。