貴方は努力家だって、私にはわかってる。でも、これから努力すればするほど、きっと叩かれると思うわ。出る杭は打たれるのよ。

だからって、努力をするなって言ってるんじゃないのよ。努力する事で人は成長していくんですもの。ただ、それと同時に人間力を培うこと。貴方は人もいいし、優しくてソフトだけど、それにプラス『感謝』を常に持つようにするの。掃除のおばさんに、おはよう! ご苦労様! って声をかけたり、お茶を入れてくれたりコピーをとってくれた女の子に、心からありがとう! って言ったりね。

貴方が変われば、周りの貴方への見方も変わるわ。もっと言ったら、今生きてる事だって、当たり前じゃなくって有り難い事なのよ。人はみんないつか死ぬのよ……。そう思えば、袖振り合うも多生の縁で、どんな人とも出会うって凄い事だって思えるようになるわ。

嫌な上司だって、平気に思えるようになれるわよ。人生の運って、人とのご縁次第よ。どれだけ、人に感謝でき、人に尽くせるか、情けは人の為ならずで、それが結局自分に返ってくるの。……あら、ごめんなさい。お説教になっちゃって」

和彦はすっかり感心して聞いていた。初めて会った時から何かちがうとは思っていたが、ただ年上と言うだけでなく、懐の深さを感じた。

「ありがとう。なんか救われました」
「いいえ。えらそうな事言って、ごめんなさい」
「澄世さんて、凄いですね」
「ちがう、ちがう、年の功よ。とにかく、自分でへこまない限り、貴方は大丈夫よ!」
「澄世さんも、嫌な事あった?」
「あった、あった、いっぱいあった。でも、ある時、一番辛かった時……まだついこの間の事だけど、その苦しみに比べたら何もかも大した事ないってわかって、全部まとめて許しちゃった。そしたら、世界が広くなったの。あぁ、私ってバカだなぁ。もっと早く人も自分も許せたら良かったのにって思ったわ。でも、生きてるうちに、全部許せて良かったって思ってるわ」

澄世はK先生の事を思った。

「ふーん……そうなんだ」

若い和彦には、澄世の言っている事が充分には理解できていなかった。それでも一緒に居ると心地いいのが自分でもよくわかった。