そう言いながら、小さな箱を1つ、手のひらに乗せ2人の前に差し出した。翔一は、彼の手の上に乗っている小箱を受け取った。箱にはアルファベットで、INCENSEその下には、MUSK FLAVOURと、書いてあった。

「ありがとう」

2人は、声をそろえて、彼に礼を言った。

「お2人は、とても仲が良いんすねぇ、すごく素敵です。あと、できたら先ほどのプレゼント。お2人が、ここで選んだ香台のファーストインセンスにしていただけたら、僕はとても嬉しいんですが」

スタッフの彼はそう言った。さすが、六本木でも有名なフーピーにいる奴らしく、この街を訪れたゲスト達の思い出を、より印象深いものにする魔法を使えるらしい。

「OK、必ずそうするよ」

翔一が、そう言いながら右手の小指を差し出そうとすると、

「翔ちゃんじゃだめよ」

そう言って、香子は翔一の腕を引っ張った。そして香子が、小指をのばした手をガラスケースの上に乗せて言った。

「男同士で、約束の指切りなんて色気がなくて、いやっ。私が、お兄さんと約束をするわ。プレゼントありがとう、あなたの希望を必ずかなえます」

香子に、無理やり引っ込められた小指で、頭を搔きながら

「そりゃそうだ、確かに色気がありませんね。かわりに香子が指切りさせてもらっといて」

翔一は、そう言って両方の肩を持ち上げた。

※本記事は、2017年9月刊行の書籍『DJ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。