先日隣町に行った時、風情のいい「うどん屋」を見つけた。
天井は高く、黒光りのする太い梁はりや柱が見える。
テーブルや椅子などの調度品も古民家風で、なかなかいい。
「天ざる」を注文した。
一組の夫婦が入って来て、オイラの向かい側に座った。今時珍しい和服姿の上品な奥様がこちら向きに、オイラに広い背を向けて座った紳士は、ロイド眼鏡に眼光鋭く恰幅(かっぷく)もいい、しかも頭はツルツルに禿げ、光り輝いている。見るからに、医者か弁護士を思わせる風貌だ。
しばらくして、天井から蚊が一匹舞い降り、弁護士と思しき禿げ頭に止まった。
弁護士の頭は微動だにしない、蚊にほど良い時間を与えている、そおーッと手を上げ、息を止める……。
「パチーン」手刀一閃(いっせん)、見事一発で仕留めた。
「ウム、こやつできる、只者ではない!」
弁護士は手のひらを自分で確認し、一言も発せず、「どうだ」とばかりに向かい側の女房に掌(てのひら)を見せつけた。
その時ご婦人とオイラの目が合い、上品にほほ笑んだ。
〇 ツルピンに平手で蚊を打つ心地よさ 短竿
大きな本屋に入った。
本棚の向こうに雑誌の立ち読みをしている男がいる。
背が低く大頭、おまけに見事な禿げで、薄赤く輝いている。
頭髪は後ろ頭の裾にわずかに残るだけ。
よく見ると、やや右寄りの頭頂(とうちょう)にばんそうこうが貼られている。
ばんそうこうの真ん中に血が滲んだ跡がある。
築山の梅の古木の枝で擦ったか? 床下に潜って古釘で突いたのか?
「痛かった、だろうなあ……」
ぺちゃーと貼り付いたばんそうこう。剥がす時、小指の爪では無理ではないか?
他人事ながら心配だ。
〇ツルピカに絆膏(ばんそうこう)の痛々し 短竿