二〇一九年二月八日付け厚労省医政局医事課長通知

この、二月八日付けで出された医事課長通知は、「医師が死体を検案するに当たっては、死体外表面に異常所見を認めない場合であっても、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等諸般の事情を考慮し、異状を認める場合には、医師法第21条に基づき、所轄警察署へ届け出ること」と書かれていた。

この通知は、厚労省は否定したが、おそらく、昭和四十四年三月二十七日に出された東京地裁八王子支部判決の引用であろう。

もっとも、この東京地裁八王子支部判決文は、平成七年版死亡診断書・出生証明書・死産証書記入マニュアルに引用されたと思われるので、足立信也議員の、東京地裁八王子支部判決の引用ではないかとの質問(平成三十一年三月十四日参議院厚生労働委員会)に対し、厚労省が東京地裁八王子支部判決を引用したものではなく、厚労省としての法解釈であると述べたのも間違いではない。

ただ、厚労省担当者が東京地裁八王子支部判決の全文を検討もせず、平成七年版死亡診断書・出生証明書・死産証書記入マニュアルの記述を盲目的に踏襲したとすれば、もっと問題があると言わねばならないであろう。

東京地裁八王子支部判決は、変死の疑いのある死体の検案(外表検査)を行う場合、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等を念頭に検案した上で、外表に『異状』があると認めた場合に警察へ届け出ると判示しているのである。つまり、東京地裁八王子支部判決は診療関連死についての判示ではなく、変死体を検案する場合についての留意点につき判示したものである。

担当者の説明不足や勇み足で、あたかも厚労省が従来の「検案とは死体の外表を検査すること」との見解を否定したかのような誤解が生じ、医療現場が混乱したが、今回の通知は、東京都立広尾病院事件最高裁・東京高裁判決、従来の厚労省見解を修正するものではないことが明らかとなった。

厚労省はあらためて、二月八日付けで出された医事課長通知は、二〇一二年(平成二十四年)十月二十六日の田原克志医事課長発言や二〇一四年(平成二十六年)六月十日参議院厚労委員会での田村憲久厚労大臣答弁と同一の趣旨であったことを明言した。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『死体検案と届出義務 ~医師法第21条問題のすべて~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。