「もちろん、それもあります。でも、ちょっと違います。だって……」

貴方は素敵で、歳は十六も上の大人で、余裕があって、いつもセンスのいい服装をしていて、優しくて、魅力があるから……と言いたかったが、恥ずかしくて私は黙ってしまった。

「だって、何? 気になるなぁ。言ってごらん」
「いいです。気にしないで下さい」
「……まっ、いいか。ところで、明日は土曜日だけど、会えるかい?」

「土曜日はお花を習いに行っているので……」と私はかわした。事実、私の唯一の楽しみだった。

「お花って、いけばな? それともアレンジメント?」
「いけばなです」
「流派は何?」
「嵯峨御流(さがごりゅう)です」

「あぁ、確か京都の寺が元で、家元制じゃない流派だね」
「よくご存じですね。そうです。京都は嵯峨の大覚寺が本所です」
「奇遇だな。僕の母も嵯峨御流だったな」
「そうなんですか! じゃぁ、教えていらっしゃるんですか?」

「いや……亡くなったよ。もう二十五年になる」と言うや、神矢の顔が曇った。

「ごめんなさい」
「あやまる事はないよ。人は皆いつか死ぬんだから」
「……でも、そんな早くになんて……」

しばらく沈黙があった。だが、次の瞬間には明るい声で神矢が言った。

「で、じゃぁ、日曜日はどうなの?」と、神矢は屈託なく聞いた。私は少し考えた。私は男性とつき合った事がなかった。これで三日連続して、お茶を一緒にしているが、これはデートなのだろうか? いやデートだったら、もっとあちこちへ行って、手をつないだり、キスしたりするはずだ……。神矢はあさっての日曜日に会えるかと聞いている……つまり、どこかへ行ってデートする気だろう。そしたら、ふつうの恋人関係になってしまう……そうすると、その先は結婚!? だが、お互い、結婚はしない主義だ。デートして何になるだろう……。

「日曜日は、洗濯や掃除をしたり、買い物や色々……。だから、このままじゃダメですか?」
「そう……。じゃぁ、来週も、お昼に会えるんだね」
「えぇ。必ず来ます」

「わかった。無理を言ってすまなかった。僕は縛られるのが嫌いでね。同じように君を縛りたくない。このままでいよう」

神矢は大人で、どこまでも寛容だった。私は割り勘でと言ったが、またおごってもらってしまった。