実はオイラが皆に隠して、まだ言ってないことがまだあるゾ。

自慢じゃないがオイラは口が堅いんだ。
三〇年近くも前のことでもう時効になっているから、この際言ってしまう。

五〇歳になった頃だ、オイラは泣く子も黙るピカピカの壮年だった。
すれ違う女共が、片っ端から振り返るほどのかっこいい! ダンディーなオジサンだったな、ウン。

まあ、日本人らしく短足で禿(は)げ頭、たれ目に鼻は低めの団子風にしつらえてある……まあその……そんなところだ。

日頃から思わせ振りな三〇代後半の女性から、
「所長さんに相談がある」なんちゃって!

金曜日のアフターに、レストランで御馳走したが、大した相談事もなし。

食事が終わっても帰らない。レストランを出る時、耳元で、

「今日、主人は出張で、一人です」
「……ウヒョー」
「子どもは母のところへお泊りなの……」
「……キャッキャッ」

「それで」

行くべきところへ行っちゃったヨー、オイラも生身の日本男児!

まあ、ソノなんだ、大人なんだナ、僕たち。
何もかも、トントン拍子、人生、案ずるより産むがやすしと言うではないか。

風呂にも入った、薄明かりの中、ベッドに横になった。
布団をそっと開けて彼女が入って来る。ジャンジャーン……。
ほのかな甘い香りを感じた時……、

「もっと暗くして」

当然だ、急(せ)いてはことを仕損じる。

わずかな灯りを残すベッドライトを消すべく、左を下にして、上体を伸ばしたが、チョット届かない、手が短いのである。

横になったまま、もう少しと、思い切り右手をグーッと伸ばした! これがいけなかった。

途端(とたん)に腰がグニュ~ッとなった……。
アレーレレレッ、腰が! 腰に力が入らぬ。
瞬間、何が起きたか分かった。「ぎっくり腰」だ。

オイラの先祖は武家である、太刀を取っては引けは取らぬが、スタンドのスイッチに油断したのが不覚だった。

おのれ「ぎっくり腰」メ。

「チョット、チョット待ってくれ」
チョットどころではなかった。それで全てが終わったのだ。

あの時のことを思い出すと、今以って無念でならぬ。
世が世なら、腹真一文字に掻(か)っ捌(さば)き、武士の面目晴(めんもくは)らさんものを!

「大丈夫、僕に任せなさい。……なんにもしないから」

確かにそんなことを言って入ったのに、ほんとに何もしなかった!

背中を押して入ったのが、出る時は、肩を借りて、壁伝い……クーッ。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『お色気釣随筆 色は匂えど釣りぬるを』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。