「二十世紀最大の海難事故、豪華客船タイタニック号の悲劇を、究極のラブストーリーに仕立てあげるなんて、ジェームズ・キャメロン監督は流石だな」と、天地は感心して言った。

「世の女性が、レオ様って憧れるのも当然だって思いましたよ。ディカプリオみたいじゃなくて、すみません」と、天地は笑って頭をさげた。

「ううぅん。先生の方が素敵です」
優子は真面目な顔で言った。

「ありがとう。優子さんにそう言ってもらえて幸せだなぁ。ところで、先生なんて呼ばないで。天地さんでいいですよ」

ロゼのワイングラスが運ばれて来た。

「今日は僕達の大切な記念日だ。乾杯しましょう。乾杯!」と、天地が言い、優子とグラスをカチッと合わせた。

「優子さん。僕は今日の事を一生忘れませんよ。これから、ゆっくりお互いの事をわかり合っていきましょう。何でも僕に言って下さい。どんな小さな事でも、一人で悩まないで、僕に言って下さいね」

天地は、優子の大きな瞳をジッと見つめて、そう言った。

「先生。いえ、天地さん。本当にありがとうございます。こんな私ですけれど、よろしくお願いします」と言い、優子は頭をさげた。

前菜が来て、パスタが来て、ピザも来た。二人は微笑み合いながら食事を楽しんだ。

「いけばな教室は、いつされているんですか?」
「火曜日と木曜日と土曜日のお昼です」
「ふーん。忙しそうですね」

「ううぅん。生徒さんは八人だけです。まだまだです」と言い、優子は微笑んだ。

「嵯峨御流でしたね?」

「えぇ。嵯峨天皇様から始まった由緒ある素晴らしい流派です。千二百年の歴史があるんです。私、嵯峨御流に出逢えた事、本当に幸せに思っているんです」

「優子さんの、その花を語る時の輝いた顔。僕、好きだなぁ。本当に綺麗だ」
天地は、優子に見とれて、そう言った。

「天地さんの、お仕事をなさる時のお顔も素敵だわ。話していらっしゃる間、私、本当に頼もしく思って見ていました」

「ありがとう。照れるなぁ」と、天地はうれしそうに笑った。

「弁護士って、大変なお仕事でしょ?」

※本記事は、2020年4月刊行の書籍『追憶の光』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。