第一章 注射にしますか、お薬にしますか?

せめて付けたや、あそこにギプス

実は、先週の月曜日以来、足首にギプスを付けておる。

なに、大したことはないのだが、全く不便だ。石膏で固めたギプスは結構重い。風呂、着替えは言うに及ばず、極め付きはギプスの中が蒸れて痒(かゆ)い。

全くこいつは掻きようがない。ギプスの上から、叩いてみるだけ、どうにもならぬ。

痒い、おーかゆーい、気が狂いそう。

詳しくは足首関節嚢破裂(かんせつのうはれつ)・靭帯断裂(じんたいだんれつ)・足関節剥離骨折(はくりこっせつ)と厳(きび)しい診断であった。

どうして、こんなことになったか?だと。
女どもがうるさくて、

「朕茂チャンこっち向いて」
「朕茂チャン連れてって」

たまにはいいけど、あまりベタベタされると暑苦しい。ひょいと左右の女を避けたつもりが、ズボンの裾(すそ)をつかんで離さない女がもう一人いた。

「朕茂チャン行っちゃイヤ」

てな訳で踵(きびす)を返した、その時足首をやってしまったのだ。いや、モテるのも、いい加減(かげん)にしないと身を潰(つぶ)す。

ナニ、オイラがそんなにモテるはずがないだと。お見通しとあらば仕方がない、カッコ悪いが本当のことを言う。

釣りを終えて渡船に乗る時、足首を捻(ひね)ったのだ。
高い磯から、船の中へトンと飛び降りた時、甲板の敷物に隠れた穴にはまったのだ。

体重が全部かかっていたから、グジャとやった時には声も出ないほどの激痛だった。

翌日パンパンに腫(は)れた足を引き摺ずって外科に行ったら、レントゲン撮影の後、若僧の医者が「チョット痛いですよ」猫撫で声で、言うが早いか、足首をねん挫した時のように思いっきり内側へ折り曲げる!

「ギャオー」指が触れただけでも、腫れて痛いのに力一杯だゾ。
「チョット痛いですよ」だと、「コノ嘘(うそ)つきー」

ハマりたい穴には一向にはまらなくて、最近はドジばかり踏んでいる。

先頃は、右手の親指を患(わずら)った。

釣果十分で早めに終(しま)い、磯の陣笠(アワビの仲間の傘貝)を取っていた。これで炊(た)き込みご飯をすると美味しいのだ。鼻歌交じりでやっていたところ、親指の先をチョット怪我した。翌々日親指の関節が痛み出し、昼過ぎには痛さは限界になった。外科に行ったら直ちに切開手術、オー痛い。

釣りの怪我はまだある。

港でフィッシングボートへ乗り移る時に、足を踏み外し海に転落しそうになった。必死に船のヘリに抱き着いた。この時したたかに胸を打ったのだ。

「どうした、どうした」と皆が引き上げてくれたが、息も止まり、声も出ない。
「地球の回る方向に跳んでしまった」と答えたのは、しばらく経ってからだ。

吾輩は日頃より、物事を科学的に理解しようとする癖がある。この時も地球の自転と同じ方向に跳び上がったため、地球の奴目が勝手に早回りし、吾輩の着地点がズレたものと理解した。無慈悲な女房めは、「足が少し短かったのかも」

この時は、肋骨(ろっこつ)が二本も折れた。「あくび」「咳(せき)」「笑い」「しゃっくり」「寝返り」全てが痛い。肋骨にギプスはないから、自然治癒(ちゆ)を待つだけで、医者なんて何の役にも立たぬ。

「外科医の看板を下ろせ──」

丸々一カ月、禁酒、禁欲、禁釣りで全くひどい目にあってしまったのだ。