しかし、80歳を前にしたころより、奥様に異変が現れます。たとえば、朝自分から約束したことを夕方にはすっかり忘れていたり、同じものを何度も電話注文したり、料理の味付けがおかしくなったりしていました。

その後認知症との診断を受けます。礼二さんはこれまで以上に奥様に寄り添い介助をするのですが、残念ながら、病状が急速に進行していきました。特に寝る頃になると、急に身の回りの物を捜し出し、見つからないと不安になって、一晩中起きて朝から断続的に眠りに入るような昼夜の逆転が起こり始めました。

自宅での介護が困難になったのです。25年続けた本屋も閉じて、奥様は3年前に介護付きの高齢者施設に入所されました。

礼二さんは、自宅の庭で自らが栽培したイチゴや野菜を使ったサラダを毎週高齢者施設に持参しておられます。本人はできるだけ健康で長生きするために栄養バランスのよい食生活と散歩などを欠かさない健康生活に気を付けておられるのです。

「次第に私のことがわからなくなっていくのがとても心配です。たとえ私が誰なのかがわからなくなっても生きているだけでよいのです。私ができる限り、最後まで彼女のそばにいたいと願っています」

奥様に対する献身的な愛情だけでなく、そうした日々の生活を悲観的どころか、むしろまるで生きがいのように前向きにとらえている姿が、ともかく素晴らしい。それに小ぎれいでオシャレで、誰に対しても謙虚な姿勢で対話を楽しんでおられる。

※本記事は、2020年1月刊行の書籍『ストップthe熟年離婚』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。