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「ところが約束の時間を過ぎても高槻さんは現れない」松岡は確認するようにいった。「そこであなたは、聞いていた高槻さんの携帯電話にかけたんですね」

「そうです。午後二時になっても来られませんし、遅れるという連絡もありませんので、おかしいなと思ってかけてみたんです」

「ところがその電話に出てきたのは、ぜんぜん違う人物だった」
「そうです。一瞬、かけ間違えたかと思いました」

「電話に出た交通課の警官は、高槻さんが交通事故にあったことを伝え、あなたの名前と住所を聞きました。そして高槻さんがどういう用事であなたのところへ行こうとしていたのか尋ねたと思いますが、なんと答えられました?」

「くわしい内容はよくわかりません、と答えました。だってそのとおりですから。それは先ほど説明したとおりです」

「どんな依頼ごとだったか、まったく見当はつきませんか」

「ある程度自分なりに推測してはみましたが、よくわかりません。でもそのことと交通事故とは関係ないでしょう」

「交通事故と直接的な関係はありません。ですが、その依頼の内容が、この事故を引き起こした原因と深く関わっている可能性も考えてみなければなりません」

「高槻教授がわたしのところに頼みごとで来られようとしたことが、事故の原因と関係があるといわれるのですか」

「そうです。この事故はなぜ起きたのか。それは被害者の車がオーバーヒートしてエンストしたことからはじまりました。ところがエンストを起こした原因は、冷却水を抜き取られていたからでした。では誰がなんのためにそんなことをしたのか」

「その理由は、高槻教授がわたしのところに来ようとしたからだ、といわれるのですか」
「その可能性を考えないわけにはいきません」
「でも冷却水を抜き取ったのは、ただのいたずらかもしれないわけでしょう」

「そういうことも考慮に入れる必要があります。しかしですね、冷却水を抜き取るためには、車の鍵を開けて車内に入り、中からレバーを操作してボンネットを開けなければなりません。高槻教授本人以外の誰にそんなことができるのか─その可能性を考えてみると、これがいたずらだとは思えません。現に、一人の人が命を落としているわけですから」

「もしこれがいたずらでなければ、なにが目的だったんでしょう。刑事さんは、これは殺人だと考えられているんですか」

 
※本記事は、2018年9月刊行の書籍『日出る国の天子』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。