はじめに

しかし、今回、厚労省の事態収拾への動きは早かった。佐々木健医事課長とは、早期の収拾策を協議し、「医師法21条に関する懇談会」を開催し、誤解の解消に努めることで一致した。衆参両議院厚労委員会による議員質問に対する厚労省答弁も出された。

さらに、実質的な収拾策として厚労省から、四月二十四日付けの「『医師による異状死体の届出の徹底について』(平成三十一年二月八日付け医政医発0208第3号厚生労働省医政局医事課長通知)に関する質疑応答集(Q&A)について」という事務連絡が出され、これを受けて、死亡診断書記入マニュアルが修正され、追補版が出された。

これらの矢継ぎ早の対応により、この問題は炎上することなく終息することができたのである。死因究明等推進基本法の成立は、さらに医師法第21条問題を安定化させることとなった。

煽る人たち、乗っかる人たち、中途半端について行く人たち、関心を抱かずただ流される人たち、これらの複合がとんでもない結果になりかねないと私は実感した。

このため、浅学菲才、法律の素人にもかかわらず、医師法第21条に関する歴史的経緯、関係裁判例、今回の騒動の経緯と終息の過程等を、法律的な面を中心に(専門外の人間が法律について書くのもおかしなことではあるが、我々医療者に密接な法である以上、当事者である我々が意見と解釈を提示する意味があるものと考える)、現実のやり取りを織り交ぜながら一冊にまとめたいと考えたのである。

本著書の真意は、行政官が、歴史的経緯を無視し、偏った自説によってとんでもない通知を二度と出してもらっては困るというメッセージである。医師法第21条の解釈は、難産の末誕生した医療事故調査制度と表裏一体の関係にある。医師法第21条の解釈変更は医療事故調査制度そのものの否定となり、死因究明制度そのものの命取りでもある。