もっと手荒なとり調べになるのではと危惧していたが、それ以上の追及はなく、私は胸をなでおろした。

段惇敬(トゥアンドゥンジン)は、その後もしばらく、私を監視するようなそぶりを見せた。おどろいたことに、湯(タン)師兄も、何度か私を尾行して来た。私は、尻尾をつかまれないように、何も知らぬていをよそおい、しらばくれるのに終始した。

心配はつきなかった。漁門は常識でははかれぬ、不可思議な組織である。いったい何人の人が働いているのか、見当もつかない。内情は、一切教えてくれなかった。飛蝗(バッタ)の目をおそれて、従業員どうしも、あまり話をしない。

私が接触するのは、湯(タン)師兄、段惇敬(トゥアンドゥンジン)、管姨(クァンイー)の三人だけだが、このほかにも、姿をみせぬ重要人物がいるのかもしれない。彼らのうちの誰かが、曹洛瑩(ツァオルオイン)の足跡をかぎつける可能性は、じゅうぶんにあった。

常人には想像もつかないような情報網が、張りめぐらされていると考えておいたほうがよかろう――こっちはその網に引っかからぬように、細心の注意をはらうことだ。

給金日、湯(タン)師兄が、いつになくするどい目で、私をじいっと見た。

――とうとう、来るのか?

脳裡に浮かんだのは、拷問である。

「いぜん、李清綢(リーシンチョウ)どののところへ、書状をとどけに行ってもらったろう」
「はい」
「おまえを、李(リー)どのの折衝係にする」

拍子ぬけした。

※本記事は、2018年12月刊行の書籍『花を、慕う』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。