東京都立広尾病院事件東京高裁判決と医師法第21条

東京都立広尾病院事件控訴審である東京高裁判決について、医師法第21条との関係で、判決の意義を考えてみたい。

【事件番号】

東京高等裁判所判決/平成13年(う)第2491号

医師法違反、虚偽有印公文書作成、同行使被告事件

【判決日付】

平成15年5月19日

【判示事項】

医師法第21条の法意

【判決要旨】

医師法第21条にいう死体の「検案」とは、医師が、死亡した者が診療中の患者であったか否かを問わず、死因を判定するためにその死体の外表を検査することをいい、死亡した者が診療中の患者であって、死亡診断書を交付すべきであると判断した場合であっても、死体を検案して異状があると認めたときは、同条に定める届出義務が生じる。

【主文】

原判決を破棄する。被告人を懲役1年及び罰金2万円に処する。この裁判が確定した日から3年間その執行を猶予する。

◆医師法第21条に関する判旨

医師法第21条は、「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」と定めている。

本件においては、まず、C医師がD子の死体を検案して異状があると認めたと認定できるかが問題である。

その前に、争点の一つである、医師法第21条に定める「検案」の意義につき、裁判所(東京高裁)の見解を示す。

①医師法第21条に定める「検案」の意義

ア.医師法第21条にいう死体の「検案」とは、医師が、死亡した者が診療中の患者であったか否かを問わず、死因を判定するためにその死体の外表を検査することをいい、医師が、死亡した者が診療中の患者であったことから、死亡診断書を交付すべき場合であると判断した場合であっても、死体を検案して異状があると認めたときは、医師法第21条に定める届出義務が生じるものと解すべきである。

イ.従来、医師法第19条2項、第20条に定める、死亡診断書を交付すべき場合と死体検案書を交付すべき場合の区別が論じられてきた。この点につき、昭和24年4月14日厚生省医務局長通知(医発第385号。以下「昭和24年通知」という)は、以下のように述べている。

1)死亡診断書は、診療中の患者が死亡した場合に交付されるものであるから、苟もその者が診療中の患者であった場合は、死亡の際に立ち会っていなかった場合でもこれを交付することができる。但し、この場合においては法第20条の本文の規定により、原則として死亡後改めて診察をしなければならない。
法第20条但書は、右の原則に対する例外として、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に限り、改めて死後診断しなくても死亡診断書を交付し得ることを認めたものである。

2)診療中の患者であっても、それが他の全然別個の原因例えば交通事故等により死亡した場合は、死体検案書を交付すべきである。

3)死体検案書は、診療中の患者以外の者が死亡した場合に、死後その死体を検案して交付されるものである。

このような医師法第19条2項、第20条に関する解釈の影響を受けて、医師法第21条にいう「検案」とは、死体検案書を交付すべき場合に死体を検案した場合に限られるとする趣旨の見解が見られた。原判決(東京地裁判決)も、「診療中の傷病以外の原因で死亡した疑いのある異状が認められるときは、死体を検案した医師は医師法第21条の届け出をしなければならない」と説示しているところからすると、このような見解の流れに立つものと思われる。