第1章 夫婦の問題

(10)セックスとコミュニケーションの性差

コラム4 幸福のパラドックス

所得と幸福の関係について、近年の経済学的調査から「幸福のパラドックス(=矛盾)」と呼ばれる興味深い結果が導かれています。多くの国別調査で、所得水準は人が感じる幸福度に重要な要因として影響をおよぼしていることは間違いありません。

特に、食べ物や住まいといった基本的なニーズが満たされていない状況では、人は一般に不幸を感じることになり、そうした基本的ニーズを賄うのに必要な所得が多ければ多いほど人の幸福度が上がります。ところが、その国の社会生活における衣食住をある程度まかなえるほどに所得水準が達していると、その水準から所得が増えても、その所得の増加に見合うだけのより高い幸福度が得られるわけでないのです。

所得が増えれば増えるほどますます幸福度が高まるという正比例の関係にないことで「幸福のパラドックス」と呼ばれています。これは、特定の国においてのみに見られる現象ではなく、様々な国の比較でより顕著に現れています。

たとえば、周辺の多くの先進国よりも高い幸福度を示す発展途上国が数多く存在しているのです。社会生活に最低限必要な物質的ニーズを満たす所得水準にあれば、所得以外の要因、すなわち、健康、自由・余暇、個人的・社会的な人間関係などの全てが所得よりも幸福度に影響を与えることになるのです。俗に「幸せはお金で買えない」と表現されるゆえんです。