はじめに

前著『未来の医師を救う医療事故調査制度とは何か』(幻冬舎)で、私は、医療事故調査制度創設にかかわった者として後進に引き継ぐべく、制度創立に至った経緯を書いた。医療事故調査制度の創設は、医師法第21条問題で医療崩壊が起こったことが契機となった。

すなわち、それまで、診療関連死には適用されて来なかった医師法第21条(異状死体等の届出義務)が診療関連死に適用されかねないという恐れが出てきたことが診療萎縮へと繋がったのである。こうして、医療崩壊を解決すべき医療事故調査制度の議論が始まったのであるが、医師法第21条問題がネックとなって、解決への道は遠かった。

我々が、「医療の内としての医療事故調査制度」と「医療の外としての医師法第21条問題」を切り分けて制度設計しなければ解決は難しいということを提案し、我々の主張通り、医師法第21条の異状死体の判断基準は『外表異状』であることを明確にすることを前提にして、医療事故調査制度は創設に至ったのである。前著は、その意味もあり、医師法第21条の考察から書き始めたのである。

私は、前著を、これまで係わってきた医療事故調査制度のけじめとして、制度創設の経緯を正しく後進に伝えることを目的に出版した。ところが、前著出版の直後に、医療事故調査制度そのものを揺るがしかねない通知が厚労省から発出されたのである。幸いなことに、私はこの通知を、発出後直ちに手にすることができた。

偶然にも、出版直後に、前著の出版意義が明瞭になったのである。このような契機で、今回、再び、医療事故調査制度創設の前提となった医師法第21条の解釈に関する論点と合意事項を再考し出版することを決断した。