山頂

小高い山の頂上とおぼしきところに
見上げるばかりの大きな赤松が
道に対して幾重かの門のように
重なって立ち並ぶところがあった

明治より前の時代に
その辺りは処刑された罪人の首を並べた場所だった
という話を近所の惚けたじいちゃんから小学生の頃に聞いたが
おそらくそれは根も葉もない与太話で
本当は山頂の印か何かで酔狂に植えたもののようだった

だいたいにおいて
昔とはいえこの小さな村にそんなに罪人がいたとも思えないし
仮にそれが真実で その場所に呪われた罪人の悪霊が
悪霊のいない空間がないくらいに渦巻いていたとしても
幽霊ウェルカムの私には少なくともマイナスではなかった

ただ
その一群の赤松の林には
特にそのまっすぐな樹木の先端が
はるか高処で青空に接する辺りの空気には
それまで自分が一度も接したことのないような
透徹した何かが含まれていた

そこに至る行程の途中で
美しい樹木はそれなりに見かけた
そんな中で
なぜこの一群の松木立が一種異様に私を魅きつけたのかは謎である