毒魚と言えば、先ず「ふぐ」だが、こいつは食べなければ毒に当たることはない。

したがって、釣り場で遭遇(そうぐう)する毒魚は、ヒメオコゼの他、オニオコゼ、ゴンズイ、アイゴである。

ゴンズイに刺された人を二人見た。一人は和歌山県・白浜の筏(いかだ)の上だった。

釣り上げた時、逃げられまいとして、上から強く握ったのである。ゴンズイに刺されることを知らなかったのだ。彼は真(ま)っ蒼(さお)になって、通りがかりの漁師の船に助けられ、救急車で病院に行った。体質的に弱かったので、手当てが遅れると死ぬところだったと後で聞いた。

もう一人は境港の堤防の夜釣りだった。久しぶりの釣りで、その人は缶ビールを四、五本も飲みいい機嫌だったが、たまたま釣れたゴンズイを握ってしまったのだ。酒の酔いはすっかり消え、帰りの車の中でも痛がっていたが、救急車で行くほどのことはなかった。

しかし翌日病院に行ったものの、肩から手先が腫(は)れあがり、全快には一週間近くもかかったのだ。ゴンズイは怖いのである。

ところでゴンズイの甘味噌煮は美味しい。腹も出さないで、そのまま甘味噌煮にする。頭を咥(くわ)えて吸い込むと、身ごと口の中にズルズルと入って来て、口いっぱいにとろけるような旨味が広がる。
南紀和歌山の釣り宿で食った「ゴンズイの甘味噌煮」は本当に美味しかった。

ゴンズイの経験はないが、オイラもアイゴに刺されたことがある。

三重県紀伊長島の磯・イナフネに釣友といた。三五センチほどのグレが入れ食いだった。グレの合間にアイゴが釣れた。こいつを外す時に刺されたのだ。全く不用意だった。魚がはね、ズボーと指先を刺された、瞬間体中に猛烈な痛さが来た。刺された指先が痛いという生易(なまやさ)しいものではない。つま先から頭のてっぺんまで痛い。とにかく立っていられない。釣場は釣れ盛っているのに、竿が持てないのだ、この痛さは口では説明ができない。それほど痛い。

刺された指先を咬んだり、抓(つね)ったり、叩いたり。

毒を中和できないかと、たばこのヤニを付けたり、はたまた小便を掛けたり、思い付くことを全てやったが、効果はなかった。

痛い、痛いを何とか凌ぎ、四時間も経過した頃、それまでのことがまるで嘘だったかのように跡形もなくケロッと治ったのも不思議だった(先日、刺された魚の目玉の液を患部に塗ると鎮痛剤になると聞いているが、まだ試していない)。

二〇センチほどのアイゴは刺身が旨い。

背開きにして塩水に漬け、一夜干しにするとこれもいい。とかく毒魚は美味しいものだ。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『お色気釣随筆 色は匂えど釣りぬるを』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。