〈事例1;警報の多発する計器室〉

あなた(46歳)は、化学工場の現場で生産機器を監視・操作する操業工の仕事をしています。工場は24時間操業を続けているため、操業工は4つの班に分かれて、午前7時から午後7時までと、続く午後7時から翌朝の7時までの各12時間の勤務となっています。いわゆる、4直2交替という交替班の一員として勤務しています。

各班共に、班長、副班長と他一般操業工4名の計6名で構成されていて、5カ所ある監視エリアの1つを、6名の内の各1名が担当して巡視点検を行う決まりになっています。担当エリアの中央には計器室が設けられ、そこでは重要な機器や生産ラインの状態をDCS(統合生産制御システム)と計装盤パネルで監視できるようになっています。

班員は6名なので、監視エリアを個々に担当する5名と、残った1名が計器室の中で工場全体の計器を監視しながら各エリアの現場担当者と連絡を取り合い、全体を把握し、調整を行います。あなたの役職は一般操業工ではありますが、この現場での経験も長く、ベテランの部類に入ります。

そのため、計器室での監視の役目は、班長・副班長とあなたを合わせた計3名が交替で担当することになっていました。今の時間は、午前4時です。あなたは計器室で計器の監視と現場との連絡で忙しい時間を過ごしています。

この工場のアラームが鳴る頻度は多く、その都度該当計器やモニター画面の確認を行う必要があります。このため計器室の業務は他の見回り業務と比べ精神的にも肉体的にも重労働となっています。

計器室で発せられるアラームには、単に状態の経過を知らせる“確認のためのアラーム”と、装置の状態の異常を知らせるための“警報のアラーム”とが存在し、両者の音質や音の大きさに違いは設けていません。違いとしては、確認時には該当する計器ランプが点滅するだけですが、警報がでた場合は5つのエリア別に分けられている計装盤パネルの上部に設置された機器別異常表示の赤ランプが点(とも)る仕組みになっています。

更に、DCS画面においても異常エリアに該当する画面の下部に、該当する異常機器名称が点滅表示されます。なお、アラーム音は新しく異常が出た時に鳴り始めますが、たった1つある確認ボタンを押した時点で全てのアラーム音がクリアされ、新規に異常が出なければ再度鳴ることはありません。

ただし、計装盤パネル上部の異常ランプやDCS画面の異常機器名の表示は、該当する異常が解消されなければ表示が消えることはありません。ちょうど計器室での監視を担当しておよそ4時間経過しました。ひっきりなしに鳴るアラームに少しうんざりとしてきたところです。

あなたは休息を午後10時頃から午前0時頃まで約2時間取りましたが、夜明けも近いためか、先ほどから少し眠気を感じるようになってきました。その時です、続けさまに鳴るアラームを確認したつもりが、1つ警報を見落としてしまいました。見落としたのは、反応槽への添加配管に設置されたバルブの異常です。

何かの原因でバルブが開かない状態になっていて、重要な副原料の添加ができなくなっていました。幸いにも大きなトラブルになる前にエリア担当者が異常に気付いたため、製品への影響はありませんでしたが、もう少し発見が遅れると大きな損害が発生するところでした。

【検討のポイント】

以上の事例から、現場で働くあなたを中心としたm-SHELモデルを適用し、何処に問題があるのかを考えてみてください。この事例は、休息の後4時間の勤務が続き疲労が溜まったことにより、脳の処理能力が低下して、立て続けに発生したアラームの1つを認知しそこなったものです。勤務上のルールや設備の設定などに問題がありそうです。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『 ヒューマンエラー防止対策』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。