それは奇妙なカタチをした素焼きの土人形だった。高さは二〇センチくらい。頭でっかちでハート形の輪郭をしている。どことなく愛嬌がある。胴体は細いところ、角張ったところと様々で、全体に点や丸や直線が描かれている。表面はザラザラしているが、素地がきれいなことから、焼き上げて間もないようである。

「どこに落ちてたの?」
「さっき藪の中で、つま先に触れて」
「誰かが持ってきて、放り捨てたのかしら?」
「まさか。もう私たちお人形遊びをするような年じゃないし」

「そりゃそうだけど……きっと隠れて変な宗教にはまっている人がいるのよ。でもこういう状況になったから、信じるのをやめて捨てたのかもしれない。とにかく、大学生に知らせよう」

「あの、私たちのことは」
「今回は黙っとくから。今後はちゃんとルールを守ってよ」

三人は礼を述べて持ち場に戻っていった。

木崎は観光案内所で種の仕分けをしている泉の元へ行き、土人形を見せた。泉は何か思い当たる様子で「私、これ、どっかで見たことがある気がする……」と首を捻った。メンバーに持ち主がいるのなら返してあげるべき、と、観光案内所の前に台を引き出して土人形を置いた。土人形は据わりがよく、ぐらぐらせずに台に仁王立ちした。

人形はメンバーの目にさらされ、その愛らしい容姿から見る者をホッコリさせた。無邪気に喜んだのは中学生だった。女子は軒並み「かわいい~」と顔をほころばせ、男子は「だっさ。ははッ」と指差して笑った。

さて、大学生の幹部連中――特に男子ら――は、朝から竪穴式住居に詰めて東南方面の調査の打ち合わせをしていて、その日ほとんど外に出ていなかった。食事も運んでもらった。夕方頃になってようやく何人かが息抜きに外に出てきた。そのうちの一人、国文学科の砂川雄太郎は、観光案内所前に何気なく置かれた土人形を見て声を上げた。

「おーい、これ! どうしたんだ?」

木崎は砂川の声を聞きやってきた。
「それ、新しく作った畑の端っこで見つけたんです」

「見つけた? 誰かが持って来たんじゃなくて?」

「もしかしたら誰かのものかもしれないと思って、昼からずっとそこに置いてるんですけど、誰も持っていかないところ見ると、違うのかも。あ、もしかして砂川さんのですか?」

「違う違う」砂川は激しく首を横に振った。

「じゃ、林さんとか、早坂さんとか?」

「まさか。こういったものをあいつらが持ち歩くわけがない……というより、きみ、これが何だか分からないのか?」

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『異世界縄文タイムトラベル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。