松岡をリビングに通し、ソファーに座ってもらうと、紅茶を煎(い)れる準備をする。お構いなく、といっているが、待たせないために紅茶にしたので、その声を無視して紅茶を煎れたカップを出した。松岡は紅茶がテーブルに置かれるのを見ながら、

「これは捜査上の秘密事項にあたるのかもしれませんが、いずれ公表することになるはずですので、申し上げておきましょう。ただし、正式な発表があるまで他言はしないでください」と冷厳な口調でいった。

「はい、わかっております」

「じつは事故原因を調べている段階で、車がなぜオーバーヒートを起こしたのかを調査しました。するととんでもないことが判明した のです」

「とんでもないこと? なんですか、それ」

「じつは高瀬さんは、一カ月の予定の長期出張で、東京へ来ておられたのですが、一週間前、こちらに出張で来られる前日にですね、車を点検に出しておられるのです。もちろんそのときには異常は認められませんでした」

「それなのにオーバーヒートを起こしたんですね。なぜですか」
「オーバーヒートの原因は、冷却水の不足でした」
「冷却水の不足? 点検したとき、異常はなかったんですよね。そのあとで、液漏れしたということですか」

「わたしもそう思って、高瀬さんが通った道をずっとたどって調べてみました。カーナビを使って運転されていたので、どのルートを通って走ったかわかっていましたので」

「そうですか。すると液が漏れた跡が見つかったんですね」

「いいえ、まったく見つかりませんでした。そして出発地の大学の駐車場も調べてみましたが、そちらでも液漏れした形跡は確認されませんでした」

「ええっ、それはどういうことですか」

「誰かが、容器を用意して、高槻さんの車の冷却水を抜いたということが考えられます」
「いったい誰が、そんなことをしたんでしょう」
「それを調べるために、わたしが出てきたということです」

「そういうことですか……」沙也香は大きく息をついた。

 
※本記事は、2018年9月刊行の書籍『日出る国の天子』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。