Chapter3 定住への道

一週間が経ち、二週間が経ち、竪穴式住居のそばの木の幹に、刻み込まれた日数の線が増えていった。若者たちは戸惑いながらも新しい生活に適応してきていた。水汲み、トイレの汲み出し、肥溜の管理は当番制が布しかれた。畑では向こう二週間計画された献立に従い、収穫が行われた。

川田率いる中学生男子は、水汲みの役割を担いつつ、魚を釣った。魚について分かったことは、今のところ餌の好みだけで、どういったところを棲みかにするのか、どこに卵を産むのかは、まだはっきりとしていない。

沼田は中学生の釣ってくる魚を煮たり焼いたり、棒でつついたりして、「この川は安全だ」と宣言した。彼の宣言にはなんら学術的な保証は無かったが、若者たちは集団随一のインテリの言うことを信じた。

メンバーはその日から川で水浴をするようになった。若者たちの肌を覆っていた汗と土は、きれいさっぱり洗い落された。汚れの下に隠れていたきめ細やかな若い肌は、太陽の光を弾ひいてまぶしく輝いた。若者たちは久方ぶりに心の底からスッキリした気分になった。

ちなみに、入浴は男子二班と女子一班、計三班の交代制。三つのうちどれかが入浴している間、男子二班のどちらかが川の周辺の見張りをする。入浴中にイノシシなどの野獣が襲ってこないとも限らないからだ。しかし見張りをする男子にとって野獣の警戒並みに厄介なのは女子の入浴だった。

はじめて女子が水浴をした時のこと。

「ちょっと男子、いいって言うまであっちを向いててよね」

泉は清流に胸元まで浸かり、川に背を向けて居並ぶ男子に念を押した。

立番の中にいた盛江は背中越しに「誰が見るかよ!」と言い返し、ついで隣の林に「ったく。アイツは性悪女だよな。男はみんな汚らわしい生き物だと思ってんだぜ」

林は苦笑し
「まあまあ。恥かしがるってことは、ぼくらも男性として意識されてるってことじゃないの?」

「自意識過剰です!」ひときわ高い木崎の声。泉があとに続く。
「一瞬でもこっちを見ようとしたら、晩御飯抜きだからね!」

「はいはい、大丈夫だよ」
「何が大丈夫なのよ」
「絶対見ないから。安心して」
「男子なんて、根っからスケベなんだから、絶対とか信じられない」
「信じてよ」
「でも、隙あらば見ようと思ってるんでしょ」

「いやいや」ここまで淡々と答えてきた林だったが、つい口が滑った。
「思っていないよ。見ようどころか、見たいとも思わないよ」

「ちょ、それ、どういう意味よッ!」

男子の背中に冷たい水が浴びせられた。

女子は、泉と木崎を中心に、強い結束を築きつつあった。