地裁判決の医師法第21条の部分は東京高裁で破棄された

◆東京地裁判決についての考察

東京都立広尾病院刑事事件は、医師法第21条違反について、病院長のみが最後まで争い、被告人として有罪判決を受けている。医師法第21条は、「医師は死体を検案して…」となっており、この条文の名宛人即ち対象者は、「死体を検案した医師」である。

院長は死体の検案を行っていないが、共同正犯として起訴されたものである。A副参事も共同正犯で起訴されているが、事務方の副参事は無罪となった。C主治医は罪状を認め、略式裁判で罰金刑となっている。院長は筋を通し、最高裁まで争った。

今回の医療事故調査制度に関わる活動の経緯で当時の東京都立広尾病院院長を調べてみたところ、都立病院の医療事故・医療安全を主導していた立派な方であったようである。東京大学整形外科同門会雑誌Foramen45号の手記にも当時、隠ぺいなどせずに如何に説明に努めたかが書かれている。何時か同院長の名誉回復がなされることを祈っている。

さて、この医師法第21条についての東京地裁判決は、控訴審の東京高裁判決において破棄されるのであるが、地裁判決の要点を以下にまとめておきたい。
 

1.医師法第21条の検案について

判旨中にあるように、経過の異状、死亡原因が不明であるとの判断をしていること、死因不明のために解剖の申し出をしていること等を死体検案をしたものとみなしている。また、診療中の入院患者であっても、診療中の傷病以外の原因で死亡した疑いのある異状が認められるときは、医師法第21条の届け出が必要であるとし経過の異状を届出対象としている。一方、外表異状にも一部言及している。

2.異状死体とは

①急変するような疾患等の心当たりが全くないこと。②薬物を間違えて注入したことによる急変ではないかと思っていたこと。③心臓マッサージ中に腕の色素沈着に気づいていたこと。④死亡原因が不明であると判断していること。の4つを異状の認識として挙げている。経過の異状に外表異状を合わせた考えと言えよう。


2回にわたり、東京都立広尾病院事件の経緯を東京地裁刑事裁判判決を中心に記載し、東京地裁判決の内容を要約したが、この東京地裁判決の医師法第21条部分は、控訴審の東京高裁で破棄された。

マスコミの報道も手伝って、東京都立広尾病院裁判は、医療側が1審の東京地裁で敗訴、控訴審の東京高裁、上告審の最高裁の全てで敗訴し、1審の東京地裁判決がそのまま確定したと誤解されてきた。厚労省死亡診断書記入マニュアルの不適切な記述も手伝って、「異状死」という言葉が独り歩きし、医療機関からの過剰な警察届出が行われることとなる。

しかし、東京都立広尾病院事件地裁判決は、控訴審の東京高裁で破棄されている。東京高裁は、憲法との整合性を考え、医師法第21条を合憲限定解釈することにより答えを出した。即ち、医師法第21条に言う「異状」とは、「外表異状」と判示することになる。この東京高裁判決が原審として、最高裁で容認されるのである。