そして、幸せになりたい想いと同時に幸せだと思われたい想いも強かった。

年増の未婚女性が貶されてしまうように、結婚が幸せの象徴であるという考えは今でも色濃く残っている。本人が幸せかどうかなど関係ない。結婚すれば無条件で幸せだと思ってもらえるだろう。特に今はまだ周りが結婚していないのだから、自分が先陣を切ることができる。

考え方も変化し結婚願望は強まったが、ロマンチストの私はハギからの情熱的なプロポーズを待った。奴隷の彼に対しては今まであれやこれやを要求したが、やはりプロポーズは男性からするものだろう。

確かに彼は自ら考えて行動するということができない人間だ。それでも自分から結婚を迫るのは凄く惨めな気がしたし、彼が結婚したいと心から思ってくれるまでは私もしたくなかった。しかし七年も付き合っても結婚のケの字も出さない彼に痺れを切らした祖母が、直接彼に結婚を促してしまった。

余計なお世話だと私は祖母に激昂したが、ハギは何度も家に遊びに来ては祖母とも顔を合わせていたし、ついつい口を挟みたくなってしまうのも仕方がないことだった。これも私が就職もせずいつまでも実家に厄介になっている故の犠牲であった。

ハギがようやく結婚を意識し始めたので、私も自分の理想のプロポーズを事あるごとにそれとなく彼に伝えていった。

「友達が誕生日にハワイでプロポーズされたみたい。海外旅行先でプロポーズなんて、素敵よね」
「ヴィオレッタの婚約指輪って憧れちゃう!」

何も言わずにハギに任せれば至極つまらない平凡なプロポーズになると思った。いや、それ以前に日時など具体的にこちらが案を出してやらねばプロポーズ自体いつになるやら分からなかった。

鈍感なハギも私の意図を汲み取ったらしく、私の誕生日までの数ヶ月間、お互いに実に混沌とした時間を過ごした。誕生日にプロポーズという儀式をし、その後結婚することを二人とも認識していながら、それを口に出すことは御法度だ。それはプロポーズ自体が、サプライズで行われるものという暗黙の了解があったからだった。

そして想定通り、私の誕生日旅行と称してハギとシンガポールに行くことになった。行きの飛行機で、私は普通ならばするはずもない心配をしていた。ハギはどこに指輪を隠しているのだろうか。手荷物だろうか。まさかキャリーケースだろうか。盗難の心配はないだろうか、と。

しかしこればっかりはハギに口出しするわけにはいかなかった。ハギが頼りないので、気がつくと私は小姑のように一から百まで何でも口を出すようになっていた。そうするとハギはますます頼りなくなってしまった。私はハギのことを全く信用していなかったのだ。