そんな複雑な思いを抱いたあと、夜の八時半からいよいよサッカーの試合が始まった。

フランスではスポーツの試合やコンサートなどはだいたい夜八時か八時半開始である。終わるのは十時や十一時になってしまう。フランス人は特に週末は夜更かしが大好きなのだ。

今回のル・マン訪問はフランスサッカー一部リーグのル・マン対ナントの試合を観るのが目的であった。
取引先であるNTN(先述の日本企業)がル・マンチームのスポンサーになっていて、日本人の松井大輔がル・マンチームでプレーしているからだ。

私たちの目当てはもちろん松井選手を応援し、彼の活躍を間近で観ることだった。

市内にあるサッカー場に着くと、試合前に隣接するレストランでシャンパンやカクテルが振る舞われる。もちろん料金は払う。受付では美女がにこやかに出迎えてくれ、思わず二ショットの写真をお願いしてしまった。

アルコールで気持ちよくなった後、おもむろに観客席に向かう。八時半といっても夏時間で、日本の感覚では午後六時くらいの陽射しだ。

いよいよ試合開始。松井選手は先発出場だ。
私たちの視線は当然、背番号二十二の松井選手をずっと追いかける。松井選手がボールに絡むと思わず力が入る。
気がつくとあっという間に時間が経過していた。

〇対〇の前半三十分過ぎ、ついに松井選手がゴールを決めた。
見事なシュートで、その瞬間ル・マンの応援席は大歓声に包まれた。

ル・マンの選手たちが松井選手に駆け寄り、抱え上げると、彼は両手を突き上げて観客の声援に応えた。
この瞬間、私たちは興奮し幸福感に包まれた。
急いでデジカメを構えシャッターを押したが、あまりにあわてていたため後で見たらピントがぼけてしまっていた。

一対〇で前半終了。
ハーフタイムの間、再びレストランでシャンパンを飲んだ後、寒くなってきたので席に戻る途中のサッカーグッズ店で、ル・マンチームのサポーター用マフラーを買い、それを首に巻いて後半を応援した。

後半も夢中で松井選手を目で追っているうちに、あっという間に四十五分が過ぎ、さあもう勝ちだと誰もが思った
とき、場内アナウンスがロスタイム三分と告げた。

その直後、速攻で切り返され、ル・マンディフェンス陣は一瞬のスキを突かれ、ナントに同点ゴールを許してしまった。
「ああ……」と思わず天を仰ぐ私たち。

結局そのまま終了のホイッスルを聞くことになってしまった。悪夢のようなロスタイムであった。

試合後はレストランで食事。私たちの会社から行った八人とNTNの方三人、ル・マン市の方一人である。
食事中、ル・マンの監督が演台で「今日はとても残念だ」と怒りの挨拶。
店内の大型スクリーンには今日の各地の試合の結果が映し出されている。

我が松井選手のゴールの瞬間も上映され、その時の感激を反すうすることができた。
試合場で見た日本人の観客は見た限りでは私たちの他は一組のカップルだけだった。

「松井選手は言葉もわからない異国の地で一人頑張っているんだなあ」
と私は勝手な思い込みでしみじみとした気分になった。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『ブルターニュ残照』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。