第五章 結婚

ハギとは結局七年付き合った。結婚したのは自然の流れ、というよりも結婚しないことが不自然になったからだった。

ハギは無事内定をもらい社会人となったが、私は就活が上手く行かず大学卒業後もそのままカラオケ店でのアルバイトを続けることになった。お互いが一応は社会人となってもなお恋人ごっこを続けている二人を、周りは放っておいてくれなかった。

「いつ籍いれるの? 早く結婚しなさい」
ハギの話になると必ず発破をかける祖母。

「あなたたち七年も付き合ってるの? 私たちはまだ三年だけど、プロポーズされたよ」
そう言って指輪をちらつかせる友人。

「七年も付き合ってプロポーズされないなんて、ひょっとして遊ばれてるんじゃない?」
そんなことを言う近所のおばさままでいた。

ハギが私に本気であることは、この七年で痛いほど分かった。二十四時間、いつ電話しても彼は出た。突然会いたくなって呼び出せば、夜中でも会いにきた。毎朝おはようから始まり、おやすみのメールまでやりとりは続いた。他の女の影も、微塵も感じることはなかった。

ハギの生活は常に私中心に動いていた。彼は時間だけでなく、お金も私に惜しまず使った。

喧嘩した時は仲直りにと高級レストランへ連れて行って、誕生日でもないのにプレゼントをくれた。海外旅行に行きたいと言えば連れて行ってくれた。そんなこんなで、就職して三年が経っても彼はたいして貯蓄もしていないようだった。何も考えずに生きる彼に、将来の結婚の為にお金を貯めるという概念はそもそもないだろう。

私も、周りに言われるまではまだ結婚について深く考えてはいなかった。フリーターという肩書にも、劣等感は感じても不安を感じることはあまりなかった。

祖母から事情を聞いた近所の人に余計な心配をされることはあったが、友人達の前で無事就職できたように装っていれば何も言われることはない。若さ故に危機感もなく、また実家で暮らしていれば生活に困ることもない。もちろんハギの存在も、私が自分を甘やかすことができる安心材料の一つだった。この先もし就職できなくたって、彼がいつかは結婚してくれるだろう。

いつか来るその時まで、何も考えず甘い甘いデートをするのが幸せで、それが生き甲斐だった。生き甲斐という言葉は、ちっとも大袈裟ではない。私は週一回のデートに、生活の全てを注ぎ込んでいた。