第1章 医師法第21条を考える

(1)東京都立広尾病院事件の事実経過と東京地裁判決

【判決】

主文:懲役1年及び罰金2万円、執行猶予3年

罪となるべき事実
①平成11年2月11日午前10時44分頃、東京都立広尾病院で主治医C医師が、D子の死体を検案した際、被告人(院長は)C医師と共謀の上、この時から24時間以内に警察署に届け出をさせず、医師法第21条に違反した。(C医師は、死体を検案した際、H医師から看護師がヘパ生とヒビグルを取り違えて投与した旨の報告を受け、かつ同死体の右腕の血管部分が顕著に変色するなどの異状を認めたのであるから、この11日午前10時44分頃から24時間以内に所轄警察署に届け出なければならなかった。)

②D子の夫Iから保険金請求用の死亡診断書及び死亡証明書の作成を依頼された際に、被告人(院長)はC医師と共謀し、病死および自然死ではないのに、死亡診断書の【病死および自然死】欄の「病名」に「急性肺血栓塞栓症」と、「合併症」欄に「慢性関節リウマチ」等と記載させ、Iに交付させた。これは、公務員の職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書を作成、行使したものである。

・東京地裁判決の判旨

医師法第21条(異状死体等の届出義務)
C医師はD子の主治医であり、術前検査では異常を認めず、手術は無事に終了し、術後の経過も良好であって、主治医として、D子が急変するような疾患等の心当たりが全くなかった。H医師から、看護師がヘパロックした際に、ヘパ生と消毒液のヒビグルを間違えて注入したかも知れないと言っている旨聞かされて、薬物を間違えて注入したことによりD子の症状が急変したのではないかとも思った。

また、心臓マッサージ中に、D子の右腕には色素沈着のような状態があることに気付いていた。結局、C医師は、D子の死亡を確認し、死亡原因が不明であると判断していることが認められるから、C医師がD子の死亡を確認した際、その死体を検案して異状があるものと認識していたものと認めるのが相当である。