共通感覚

ある音楽の刺激に対して
内側から共鳴するものがある時
音世界はその人にとって魅力となる

通常
人の感受性は
音楽などの刺激に対して
重いゴムのような膜で覆われている
だから
すべての音楽がすべての人にとって魅力となるわけではない

だが
ある種の音楽は
内面から一種の共鳴をもたらす
その原因は
その音世界の中にある

魅力的な旋律
絶妙なハーモニー
心地よいリズムなど
音楽本来の持つ美しさにも当然あるが
ひとつ忘れてはいけないのが
懐かしさなどの「共通感覚」である

それがある音楽は
感受性を震えさせ
ゴムの膜が最初からなかったように直に共鳴させられる

ある音楽に対して
先入観として「共通感覚」がない時
内面はゴムの膜を厚くし
感受性の閉じた状態になってしまう

閉じた状態だったのにいつのまにか
魅せられるということもあるが
それは
閉じていてもわずかに入ってくる音に
先入観になかった「共通感覚」が
見出された時である

逆に
お気に入りのアーティストのように
先入観として「共通感覚」が
たくさんあるのを知っている音楽については
人は極限までゴムの膜を薄くし
感受性を裸に近い状態にする

ジャズの好きな人は
そうでない人に比べて
ジャズを聴いて
魅力を感じる頻度が高くなるのは
こうした理由だろう

さらに
こうしたことは音楽だけでなく
映画 絵画 演劇 文学 アニメなど
あらゆる芸術・エンタメ表現に関しても応用できる

例えば
お笑いで
ボケ担当が多少古い話題に関してくすぐりを入れてきた時に
「まるで(懐かしの)Aのようだ」と
内心で考えたお客さんはツッコミ担当が「Aじゃねえよ!」と
つっこむと必ず笑う
ところがそのA自体を知らないお客さんは
しばしぽかんとする
こうしたことも
「共通感覚」が大きく影響している

付け加えると
外側からの刺激が魅力になるのは
その刺激が過去のいいイメージ・感覚に
「共通感覚」のあるときに起こる
だから
嫌な経験のイメージに「共通感覚」の
ある刺激は魅力になりえない

逆に
ある刺激の「共通感覚」によって
消えかけていたいいイメージが思い出されたり
より鮮明になったり
新しい光を当てられたり
自分の中でより大きな位置を占めるようになった時
その刺激による魅力は倍増するのである

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『静寂の梢』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。