断面

人生についてそこはかとなく考えをめぐらし
その究極的な部分に来るとき
干潟を覆う満潮の黒い海水のように
いつのまにか満ちてくる冷たいイメージがあった

それは何か至極混沌とした切迫した影のようなものであり
自分はそれに根源的に反発するらしく
思索の先方にそれが現れると
無意識のうちに方向転換する
そういうことの連続であった

例えば 都会から田舎に遠出のドライブをし
夜の山間の駐車場でカーステを切りエンジンを切った後に
いつのまにか大地の底から湧き出るような虫の音に包まれている
というようなことがある

寒村に戻り
スマホやネット上の幻影のような光やノイズの消えた静寂の中で
少しずつではあるが
その冷たいイメージの全体が掴めてきている気がした
それは 自己の存在の断面
つまり「死」のイメージである

それは常に闇である
なぜか
どんなに意識の光を投げ掛けても
小さなブラックホールのように
そこには反応するものが
何もないから……

ひと気のない夜の野山をひとりで散策しながら
自分はこれまでの人生で一度もない程
「幽霊」に出会うことを心から願った

別にそれは
もともとその手のものが
好きなタイプの人間だったからではない
実情は正反対で
小学生までの自分は「幽霊」の特集をしたテレビ番組などが
間違って視界に入ってしまうと
その後一週間くらいは
そのテレビの半径2メートル以内を歩けない子供だった

だが
そんな弱虫も考えた
もし「幽霊」に出会えば
あるいはそうした存在の足跡のようなものに
触れることが出来たならば
死んだ後は「無」であるという
最も耐え難い暗闇に
ほんのわずかにも
光のさす可能性が出てくるのではないか……と