なぜなら、この国には敵対国は存在しませんから、恒久的な平和の実現が約束されるからです。つまり、我々人間の個々の主権の負託先は国々の中の国ではなく、世界国家がより良い選択肢であるということになります。幻想は捨てなければなりません。

主権国家の数多ある世界においては、個の命題が「平和」であることに対し、個の集合である国家の命題が「戦争」であるという矛盾が必然的に生じますが、世界国家の下では個と国の命題は「平和」で一致します。

09 人間の自然状態vs平和vs科学の発達

トマス・ホッブズ(17世紀のイギリスの哲学者)は「人間の自然状態は、万人が富や権力を求めて戦う戦争状態である」という見方をしていますが、仮にこの見方が正鵠を得ているとしても、人類を絶滅する兵器を製造できる科学の発達という条件が登場した今、我々はホッブズの言う人間の自然状態のままでいることはできません。戦えば人類は絶滅するからです。

我々が「平和と幸福に包まれて末永く存続することを希望する生命体である」ということであるならば、我々は賢きに就き知恵により、ホッブズの言う「自然状態」から脱却しなければなりません。争わないために我々に課せられる必要最小限の要求は、争いの三大根源を断つこと、すなわち人種・民族の差別と争いを創造する宗教という妄想を去ることに加え、敵対国家の存在しない世界国家を目指すことにあります。

神仮説に基づき、穿った見方をすれば、神は「人間の自然状態と科学の発達とのセット」という障害物を設えて、人類がこの試練を乗り越えて自らの絶滅を回避し、平和と理想郷と幸福を手にすることができるかを試されておられるのやもしれません。そうであれば、我々は神にも負けてはなりません。

人間は、闘争と博愛という対立する遺伝子を持っているようですが、「人間界至高の理念」(第1章重要事項15)の実現を目指すのであれば、理性の働きにより、争い殺すことよりも許し助け合う遺伝子の方を発動するよう心掛けねばなりません。闘争の遺伝子は、対人間に向けて発動するのではなく、この世に理想郷を築くためにいかなる難関をも克服するという難関突破の闘争のために発動されるべきことになります。

人間界から争いが消え平和でありさえすれば、人類は思いのままに幸福になることができます。争いのために費やされていた計り知れない物心両面のエネルギーの全てはこの地上、宇宙船地球号の中、にこの世における理想郷を築くために充当することもできます。理想郷の2つの条件である自然環境と人為環境を我々の望むように磨き上げて行くことが可能になり現実になるということです。

10 非現実を現実に

人類の末永い平和と幸福のために理想郷を建設するという希望、そしてそのための必要条件となる人類滅亡の回避、は現実から見れば遠い非現実です。この非現実を実現するためには、現実を以てしてはその実現は困難です。つまり、非現実の実現は非現実によるしかないということになります。その非現実の取っ掛かりに「核の廃絶」と「世界国家の樹立」があります。従って、我々には今この非現実に向かう決意と行動が要求されることになります。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『神からの自立』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。