お昼の十二時に、待ち合わせのホテルグランヴィア大阪のフロントに現れた澄世は、淡いピンクのシンプルなラインのワンピースを着ていた。十九階にあるフレンチレストラン・フルーヴへ行き、和彦が予約しておいたテーブルについた。

「ピンクがお好きなんですね」
「ええ」

それにしても、ピンクがよく似合う女性だなと和彦は感心した。本当に幾つだろう? 遅咲きの桜の精みたいだ……。真珠のネックレスも澄世の清楚さを際だたせていた。

「ベルギーはいかがでした?」
「ええ、忙しいばっかりで」
「彼女にダイヤを買ってあげなかったの?」

ベルギーがダイヤモンドの流通で有名なのを澄世は知っていた。和彦は今、上司とそりが合わず、あまり仕事の話はしたくなかった。それで話を澄世にふった。

「沖縄はどうでした?」
「いけばなインターナショナルって言う、世界中に日本のいけばなを紹介する団体があってね、その世界大会が、今年は沖縄コンベンションセンターで開かれて、私の先生がデモンストレーションをされるので行ってきたの。十三日に、いけばな愛好家が世界中から約千百人も集まってね、名誉総裁をなさっている高円宮妃久子殿下と、お嬢様の絢子女王殿下、それに常陸宮妃華子殿下もおなりになって、先生のデモンストレーションが始まったの。あっ、その前に嵯峨御流の説明をするわね。嵯峨御流の本所 大覚寺は一二〇〇年前、嵯峨天皇の御所だったの。空海の話を聞いて、中国の洞庭湖を模して大沢池を造られ、これが日本現存最古の人工池なんだけど、そこにある菊ヶ島に咲く菊を、嵯峨天皇が手折られて、瓶に挿されたところ、その姿が自ずと天、地、人の三才の美しい姿を備えていた事から、『後世花を生くるものは宜しく之を以て範とすべし』と仰せになった事から始まってね、嵯峨天皇様をいけばなの祖と仰いで、現在に至っているの。嵯峨天皇様と親交の深かった空海の教えも含まれて『花即宗教』の精神で引き継がれているのよ」

澄世は目を輝かせて話した。

※本記事は、2018年9月刊行の書籍『薔薇のノクターン』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。