82歳のSさんが糖尿病の悪化でかかりつけ医から紹介されて受診されました。血糖値が500以上もありました。のんびり屋のSさん、自覚症状はあまりありません。ところが初診時の画像検査で左の腎臓に異常が見つかりました。腎臓がんを疑い検査を進めた結果やはりがんでした。血糖をコントロールした後Sさんは手術を受けられることになりました。

化石医師は腎臓の専門医ではありません。また放射線科専門医でもありません。ただ目の前の患者さんの特定の臓器を診るのではなく、全て含めて診察するようにしています。また得られた画像を必ず細かく見るようにし、機会があれば何度も見直すようにしています。

そんな中で、肺炎の方に使用した抗生剤の影響で胆囊内に特殊な変化が生じることに気づき、まとめて研修医に論文を書かせました。これも肺だけを診ていたのでは気づくことのない変化です。特定の分野に詳しい専門医は重要です。でも心臓はうまく動いて いるが、他の肺や腎臓あるいは肝臓がだめになったのでは治療も意味がありません。

専門の疾患を診ながら身体の全てが円滑に回るように配慮していく、それが専門医でしょう。患者さんは社会生活復帰のために専門医を訪れるのですから。

大学病院で肺がんの手術を受け脳転移もあると言われたKさん。脳にも転移した肺がんなら余命は望めず元気がありません。でも頭の検査をしても異常はありません。「脳転移? うーん?」それにしても状態が良すぎます。手術を受けられてから5年以上経ちました。

先日受診された大学病院で「治癒したと思われます。経過観察は終わりにします」と言われたそうです。Kさんの頭の画像を誰が読まれたのか。大学病院神話が崩れるところです。最近訪れたKさん、「先生がここにいる限りこの病院に通院します」と言われて帰られました。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『新・健康夜咄』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。