呆れたことがもう一つ。通院していた病院の担当医にその患者が「5カ月も通っているのに痛みが改善されるどころか、痛みが増すばかりです。どうなっているんですか?」と聞いたところ、返ってきた言葉が「じゃあ、別の病院へ行きますか? 紹介状なら出しますよ」ということだったらしい。その患者はそういうことを聞いているのではなく、改善しない理由を聞いているのです。

本来であれば「今このような治療をしているが、どこそこの部分がこうなっているから痛みが改善されないのだと思います。だから、今後はこうやっていきましょう」と答えるのが医者の務めというもの。こんな医者ばかりいるから治らない三種の神器を多用して「様子を見ましょう」という無責任なことになるんです。患者たちの本心は怒ってますよ、「ちゃんと治療してくれよ」って。だから「整形では治らないもんね。薬を出すだけだからね」という言葉をよく聞くことになるんです。

中村:こんな状態だと、患者は本当に困りますよね。

溝口:困ってしまって、「どうしたらいいのかわからない」という悩みが大きいようです。先日も「腰が痛くてもう2年間も整形外科に通っているんですが、どうしたらいいでしょうか? 整形外科からは単なる腰痛だと言われています」という相談を受けて診てみましたが、明らかに腰からくる痛みではなかったので、知り合いのクリニックへ紹介状を書いて検査してもらいました。結果、卵巣嚢腫だったことが判明。その後、除去手術を受けて腰痛は消えたそうです。単なる腰痛だと言われて2年間。こういう類の話が後を絶ちません。

うちのスタッフや患者も同じ症状(卵巣嚢腫)で個人病院へ通っていますが、一人は鍼治療で完治、あと二人は確実に小さくなっており、共に主治医がビックリされているそうです。ビックリするんじゃなくて、ちゃんと治すための治療をしないとね。薬だけのアプローチでは治りませんよ。薬理学的な細胞内へのアプローチだけではなく、細胞外(細胞外基質)からのアプローチもかけていかないとね。アトピーの治療も同じです。ちょっと余談になってしまいましたが。

中村:さっきの2年間通われた腰痛の方のお話ですけど、これは整形外科医の誤診ではなく見落としですね?

溝口:いや、怠慢です。プロである以上、見落としはやってはいけないことですし、2年間という時間を無駄にしているわけですから、これは医者の怠慢です。そういうことも含めて名医とそうでない医者との差は歴然としています。患者は、ほとんどの医者が頼りになると思っているかもしれませんが、医者も野球選手同様、さまざまです。ただ、プロ野球選手の能力は数字に表れてわかりやすいのですが、医者の能力は数字に表しにくいものが多いので、診断、治療、手術、アフターケアなどを含めた能力偏差値が出しづらい。しかし、何度でも言いますが、能力の差は歴然としています。

中村:確かにわかりにくいですね。評判や口コミぐらいですものね。

※本記事は、2019年4月刊行の書籍『ゴッドハンドが語るスポーツと医療』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。